炎の一筆入魂BACK NUMBER
「ここにいる時点でラッキー」カープの196cm右腕・アドゥワ誠が無欲でつかみ取った5年ぶりの先発勝利
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/08 11:00
スリークォーター気味に腕を下げた今シーズンのアドゥワの投球フォーム
無欲で開幕ローテの最後の席を勝ち取った。キャンプ前から先発4本柱の大瀬良大地、九里亜蓮、床田寛樹、森下暢仁(開幕直前に右肘張りで離脱)は確定。新外国人のトーマス・ハッチも決定的な状況だっただけに実質1枠の争いだった。それでも昨季開幕ローテ入りした玉村昇悟や、昨季4勝の森翔平らとの争いを大外からまくった。
昨季4年ぶりに一軍登板を果たした中継ぎから、今季先発に再転向した。実は昨季途中に打診されたが、シーズン途中ということもあり断っていた。昨オフにあらためて先発起用の方針を受けても、何かを変えることはしなかった。
「どこで投げるにしても、準備は変わらない。(役割によっての調整法は)特につくっていない。アドバイスをもらって、それを出来るほど器用じゃないので、できることをやってきた」
キャンプから先発争いが続く中でも淡々と登板を重ねてきた。気づけば投球回が増え、一軍に残り、開幕3戦目の先発マウンドに立っていた。
貪欲な選手が集まるプロ野球界でも珍しいほどに、欲が感じられない。グラブにグラブと同系色のくまモンを刺しゅうするだけと地元熊本への郷土愛は控えめで、自己主張も強くない。オープン戦最終登板を終えたときのコメントが、アドゥワらしさを表していた。
「緊張はしないっすね。あまり自分に期待していないので。自分に期待している人が緊張すると思う。本当に自分には自信がないので。結果、うまくいったらラッキーぐらいに思っています」
シーズン開幕が目前となり、初の開幕ローテを勝ち取った高揚感に触れようとした記者たちは肩すかしを食らった。
身長196cmの強み
松山聖陵高から広島にドラフトで指名されたときも、プロ入りできるとは思っていなかった。今年で8年目。もともと投げるポジションにこだわりはない。
「高校からプロに入ったのも奇跡ですし、こんなに長くやれるとも思っていなかった。ボーナスタイムくらいに思っています」
どれだけ敵地が揺れても、アドゥワの心が揺れなかった理由が分かる。