プロ野球PRESSBACK NUMBER
「こういう道もあるんや」あのドラフトから20年…元阪神・辻本賢人35歳が手にした“本当に大切なもの”「いまの方が球も速いんちゃうかな」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/04/08 11:03
神戸市内でNumber Webのインタビューに応じる辻本賢人(35歳)。現在は翻訳業などに携わりながら、家族と穏やかな日々を過ごしている
阪神時代から書き続けた“膨大なメモ”
辻本の自宅の棚にはノートがぎっしりと一段に並ぶ。15歳の頃から、思いついたことを書きとめてきたものだという。
「タイガースにいた時から続けていて、いまも自分が思いついた、面白いことを全部、メモしているんです。最近はオーディオブックとか、ポッドキャストを聴いて、面白いと思ったところを文字に起こして保存したりしてますね」
15歳の頃から、好奇心が尽きなかった。練習後の夜は読書に明け暮れていた。野村克也監督の著書を読んでいると、古代中国の戦争のエピソードが出てきた。そこから、戦略に関する本を手に取るといったように興味の幅を広げていった。当時、こんなことも考えていたのだという。
「ずっと球団の編成部の方に言ってきたことがあるんです。『日本と韓国が1リーグでやればいいんじゃないですか』と。そうしたら、メジャーリーグに勝つこともできるんじゃないかと思います。中学の頃、アメリカにいた時に思いついたんです」
「15歳のプロ野球選手」は思考も型破りだった。この世には「右へ倣え」をせずに、自ら道を作る生き方がある。プロ野球選手は引退後の方が人生は長い。時折、そのセカンドキャリアが話題になる中、辻本はあくせくせず、なんだか軽やかだ。きっと自分だけの時間を生き、豊饒な世界を育んできたのだろう。
午前4時に起きる翻訳家と向き合っていてふと気づいた。贅肉がまったくなく、引き締まっている。
「体を動かしているんです。走ったり、筋トレをしたり……。柔軟体操もめちゃくちゃできるし、逆立ちも懸垂もやってます。僕、いまの方が現役の時よりシャープやし、多分、球も速いんちゃうかな」
冗談を交え、ガハハハッと笑った。
爽やかな笑顔を残したまま、神戸の街の雑踏に溶け込み、ふっと姿を消した。
<第1回、第2回とあわせてお読みください>