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「こういう道もあるんや」あのドラフトから20年…元阪神・辻本賢人35歳が手にした“本当に大切なもの”「いまの方が球も速いんちゃうかな」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/04/08 11:03
神戸市内でNumber Webのインタビューに応じる辻本賢人(35歳)。現在は翻訳業などに携わりながら、家族と穏やかな日々を過ごしている
「子どもとの時間を大切に」野球から離れた現在の生活
いま、辻本は9年前に結婚した妻や子どもたちと、穏やかに暮らしている。
「早朝から海外とやり取りをした後は、子どもを学校に連れて行って、帰ってきたら日本の企業と打ち合わせをします。子どもと一緒に夜8時か9時に寝て、朝4時に起きてというのをずっと続けています。子どもと過ごす時間を大切にしたくて」
昨年11月、辻本が子どもと神戸の街を歩いていたら、人で溢れかえっていた。祝日とはいえ、普段にはない混雑ぶりに何事だろうと思った。やがて理由が分かった。タテジマのユニフォームを身にまとい、黄色いタオルを掲げる人が次々と目に入ったのだ。その日は、日本一に上りつめた阪神の優勝パレードだった。すっかり野球と縁遠くなった彼は頭をかきながら笑う。
「タイガースの優勝も、日本シリーズに行った時くらいまで知りませんでした。僕、携帯電話もほとんど見ないし、テレビもほとんどつけないんです」
阪神のリーグ優勝は18年ぶりで、日本一は実に38年ぶりだった。浮世離れしたところがある彼は目じりを下げた。
「すごいことですよね。僕、選手は誰ひとり一緒にやっていません。ただ、コーチ陣の方々は全員と言っていいくらいに現役の時期がかぶっています。顔なじみの方が多いので、すごく嬉しいです」
そう言うと、不意になにかを思い出したかのように自ら切り出した。
「いま、福原さんは何をされてますか?」
そこからは、私が水を向けるまでもなく、次々と名前を挙げては近況の質問攻めである。安藤さん、金澤さん、橋本さん、葛西さん、遠山さん、星野伸さん、加藤さん、伊藤さん、上田部長、寮長の山本さん、西口さん……。もう20年も前のことなのにすらすらと名前が出てきた。