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「箱根駅伝を優勝しない方が幸せだった」郡司陽大26歳が苦しんだ「箱根駅伝の魔力」 自傷行為、引きこもり生活…救いとなったのは「加藤純一」だった
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byWataru Sato
posted2024/01/21 06:02
時折目に涙を浮かべながらつらい時期のことも赤裸々に明かしてくれた郡司。加藤純一などゲーム配信者に救われて今があると語る
「ずいぶん家族に助けられたなぁって思います。僕は仕事もしていないし、何か利益を生み出しているわけじゃないですけど、ご飯を食べさせてくれて、心配してくれています。無職なので『家(豚肉の生産、加工販売)を手伝ったら』と言われるんですけど、僕は家畜を育てるのはいいんですよ。でも、食肉として送り出すのがいやなので断っています」
昨年10月、愛犬のゴンタ君が息を引き取った時、もっと何かできたのではないかと自責の念にとらわれ、ペットロスに苦しんだ。動物への愛情が深い郡司にとって家畜も犬も同じであり、天寿を全うするのではなく、ある時期、「死」へと送り出すのは耐えられないのだろう。
これからは人を笑わせられる人生にしたい
ただ、いつまでも部屋に閉じこもっているわけにはいかない。
郡司にとって単純に楽しく、社会との接点であるランニングは、今後も継続していくが、ほかにも挑戦したいことがあるという。
「ゲーム配信や雑談配信に僕は救われたので、そういう配信をもっとやっていきたいです。もうひとつはラジオをやりたいですね。有吉(弘行)さんやハライチさんの番組を聞いているんですけど、楽しいですし、人を笑わせるのっていいなって思うんです。僕も配信中、いきなり前髪を切って笑わせたんですけど、これからは“笑われる”人生にしたいと思います。さんざん暗い時代を過ごしてきたので」
郡司は、そう言って白い歯を見せた。
甥っ子や姪っ子と遊ぶのが楽しい
待ち合わせの場所に、郡司は少し離れた駐車場から走ってやって来た。そのフォームは、東海大時代と変わらないものだった。
「本当に恥ずかしいんですが、お腹は多少、脂肪で揺れるんですけど、胸も揺れるんですよ(苦笑)。僕は、昔から胸板が厚くて、筋肉質だったんですけど、脂肪がついてここ(胸)がこんなに揺れるんだって思いました。走っていると、たまに友人から『デブが走っていると思ったら郡司じゃん。けど、太ったなぁ、胸板厚過ぎ』って連絡がくるんです。太っても走り方は、変わらないんだなぁって思いましたね」
一方で、変化も起きている。
ゲーム配信や雑談配信を楽しんだり、こうしたいというポジティブな気持ちが生まれてきている。話をしていてもリラックスした表情で、時折、笑顔を見せ、家族への感謝を語り、甥っ子や姪っ子と遊ぶのが楽しいという。ひどくこじらせた“心の風邪”は、間違いなく快方に向かいつつある。走る様もいずれ昔のシルエットに近づいていくだろう。
<「優勝」編とあわせてお読みください>
郡司陽大(ぐんじ・あきひろ)
1997年4月3日、栃木県生まれ。那須拓陽高校を経て、2016年東海大に入学。2019年の箱根駅伝で10区を区間3位で走り、東海大優勝のアンカーに。同年の全日本大学駅伝で6区区間賞。翌年の箱根駅伝では10区を走り、区間3位に。卒業後は小森コーポレーションに入社。2021年10月に退社し、現在はTwitchでゲーム実況配信などを行う。