大きく変わることは大変なことだが、わずかに心構えを変えるだけでもチャンスが広がる。大竹は自ら変化していっただけでなく、周囲のフォローも後押しになった。

　早稲田大の大先輩にあたる岡田とは多くの言葉を交わしたことはないが、信頼されている手ごたえがあったという。メディアに出る登板前日の監督談話は必ずチェックしてきた。「明日は大竹だから接戦になると思う」。何げないコメントだが、これだけでも意気に感じることができた。

「そう思っていただいているんだと思いました。信頼して送り出してもらえる安心感が、マウンドでのリラックスに繋がっています」

大竹に響き続ける師匠・和田の言葉

　移籍1年目から自己最多の12勝2敗、防御率2.26と大車輪の働きだった。貯金10個を稼いでリーグ優勝に貢献。現役ドラフトは、くすぶっている選手に出場機会を与える救済措置として、日本プロ野球選手会の要望で実現した新しい制度である。1期生の大竹が奮闘したことは意義深く、そういう意味では彼はパイオニアだと言っていい。

　いまは優勝祝賀会やイベント出演の合間を縫って、トレーニングを重ねる日々だという。結婚して、ハワイの優勝旅行では家族と喜びを分かち合い、たった1年で、人生が変わった。だが、絶えず和田の言葉を念頭に置いている。日本一になったシーズン後、報告の電話を入れた。すると、ねぎらわれつつ、こう言われた。

才木浩人（左）と優勝旅行で訪れたハワイで好物のラーメンを食べる大竹耕太郎　©︎Sankei Shimbun

「今年活躍して、これがスタート。来年、再来年と続けていって初めて一人前。今年できたからよかった、ではなく、続けていくのが大事からね」

　あの日から1年が経った。この日はくしくも現役ドラフトが行われていた。その昼下がり、「阪神はどうなりますかね。だれが獲られて、だれが入ってくるか。気になりますよね」と呟いた。

　バラク・オバマの修辞だが、chanceはひと文字変えるだけでchangeになる。大竹は心を変えようと自ら動いたことで、大きく変わっていった。現役ドラフトは暗闇に差し込む、一筋の光になった。

（後編へ続く）