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戦力外ドラ1「投げるのは最後かも」、7打席で無安打「正直歯が立たなかった」…トライアウト“画面に映らない”人間模様の舞台ウラ 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byYuki Suenaga

posted2023/11/16 17:40

戦力外ドラ1「投げるのは最後かも」、7打席で無安打「正直歯が立たなかった」…トライアウト“画面に映らない”人間模様の舞台ウラ<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

今シーズンも開催された12球団合同トライアウト。様々な人間模様が交錯する

 彼は千葉・横芝敬愛高から「プロに行くために」徳島に入った。1年目は右肩痛で投げられなかったが、2年目の後半で成績を残してプロ入り。新人の春季キャンプでも話を聞いたが、緊張の面持ちで話していたのが印象的だった。しかし右肩痛を再発して、3年間一軍登板はなし。DeNAの田中俊太に右前打を打たれ、中日の伊藤康祐は二ゴロ失。しかしオリックスの釣寿生から見逃し三振を奪った。

「今年はずっと調子も良くて、肩も痛くなかったので、来年やるぞっていう気持ちだったのですが、戦力外になって」頭が真っ白になったが、「でも、やらないと多分後悔すると思ったんで、やれることをやった」と語っていた。

元阪神・高山俊は“格が違う”打撃を見せた

 打者としては、やはり阪神の2016年新人王・高山俊が目立った。打席に立つとひときわ大きな拍手が起こる、応援歌を歌い続けるファンもいた。

 打席結果は右中間二塁打(ソフトバンク岡本直也)、空振り三振(薮田)、右前打(ヤクルト山川晃司)さらに二盗、四球(DeNA平田真吾)、遊飛(ロッテ土居豪人)、遊ゴロ(巨人・山本一輝)、四球(日本ハム姫野優也)。7打席に立って5打数2安打。3打席目の右前打は火の出るようなライナーだった。格が違うところを見せつけたが……。

「対戦経験のない投手との対戦だったので、相手がどうのと言うより自分が持っているものを出そうと思って臨んだ」とのこと。「泥臭くしがみつく姿を出そうと思った」という言葉が印象的だった。

中日で唯一参加した伊藤康祐を応援する人も

 客席に回ると「蒲郡」と書かれたスポーツタオルを大きく広げている中年の女性がいた。「誰を応援しているんですか?」と聞くとはにかみながら「中日の選手です」と言った。このトライアウトには中日の選手は伊藤康祐しか出ていない。愛知県から駆けつけたという。

 伊藤は第1打席でオリックス吉田凌から四球、その後は二ゴロ失(広島・行木俊)、遊ゴロ(楽天・佐藤智輝)、二ゴロ(ヤクルト成田翔)、四球(西武・張奕)、一邪飛(巨人・高田竜星)、見逃し三振(巨人・坂本工宜)7打席で2四球、安打は出なかった。

「久しぶりにピッチャーの球を見て、正直歯が立たなかった印象です。守備では(いいところを見せる)機会があればなと思いました」

 伊藤は率直に話しつつ、こう続ける。

【次ページ】 「トライアウト、必ず見に行って応援する」ファンも

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