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ロッテ・藤岡裕大が明かす「幕張の奇跡」の裏側…初めて腹をくくった“長打狙い”「ゾーンってこんな感じかも、って」…大歓声に誓った“ある決意”
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byChiba Lotte Marines
posted2023/11/10 11:00
劇的な一打を放った藤岡を出迎えるベンチはお祭り騒ぎ。スタジアムは興奮の坩堝と化した
前の打席ではバントを失敗している。いつもならマイナスなことが頭を駆け巡ることもある藤岡だが、この時だけは違った。なぜか長打を打つイメージしか頭によぎらなかった。野球をやって初めてといってもいい研ぎ澄まされた感覚を感じていた。
「いつもならゲッツーになったら嫌だなあとか頭をよぎるものなのですけど、あの時は不思議とそれは思いもしなかった。いいイメージだけ。長打を打つということしか考えられなかったし、集中をしていた。あ、よくいうゾーンってこんな感じかもと後から思った」
「とにかくストレート。絶対に…」
藤岡は出番が来るまで、ベンチとネクストバッターズサークルで冷静にマウンド上の津森宥紀を分析していた。先頭の角中の打席では津森は10球投げて、いずれもストレート。続く荻野に対しては、4球のうち2球がストレートだった。レギュラーシーズンでも勢いのあるストレートを武器にする投手。藤岡はストレート1本に絞った。
「とにかくストレート。絶対にストレートで入ってくると自分に言い聞かせていた。状況的にもストレートでストライクをとりにくると思っていたので、初球のストレートを一発で仕留めるという強い気持ちだけでした」と振り返る。
真ん中やや低めの148kmストレート。コンパクトに振り抜かれた打球は幕張の夜空に向かって舞い上がり、やがてライトスタンドに消えていった。打った瞬間に歓声が上がり、打球が消えた瞬間に絶叫に変わった。シーズン1本塁打の男が一撃必殺のホームランで試合を振り出しに戻した。ベンチはお祭り騒ぎ。戻ってきた藤岡は仲間と抱擁し、叫んだ。
「ここでなんとかと思っていた中でこれ以上ない結果となった。本当に思い通りに一発で仕留めることが出来た。打った瞬間に行ったと感じました。自然と右手も上がってガッツポーズが出た。ただ、自分は入ると思っていたけど、周りからは『案外、ギリギリだったよ』と言われました(笑)。確かにホームランラグーン(ラッキーゾーン)でしたね」
今でもそのシーンを思い出すだけで興奮が蘇る。