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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「野球を売りにしたくないんですよね…」“阪神Vの立役者”が北新地で人気店を営むまで…現役引退→初めて包丁を握った右腕の「第二の人生」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/20 11:30
2005年秋のヤクルト戦で力投する阪神・桟原
刺身に始まり、塩系からタレ系の鶏焼き……。テンポが大事なのは、打者であれ、鶏を食べにくる客であれ、同じである。
自ら気づき、自ら変わっていった。
この街で生きて、数年経った頃、あることを発見した。北新地はクラブやスナックがひしめき、出勤前のホステスが訪れることも多い。
「手羽先を食べると、どうしても手が汚れてしまうんです。それで、あらかじめ骨を除いておくことにしました。仕込みの作業はひとつ増えるのですが、その方がいいかなと思って。骨を除いた後に焼いたら、めっちゃ縮みます。見た目は悪くなるのですが、手羽先自体の味は変わりませんから」
投手だった頃は剛腕タイプだったが、ストライクゾ―ンの四隅を突く右の本格派のごとく、痒いところにも手が届いている。
「野球を売りにしたくないんです」
「やっていくうちに、自分なりのスタイルを模索しました。メニューも自分で開発しました」
鶏チャーシューやそぼろ丼、カレーライスなども新たにメニューに並ぶ。気づけばテレビで料理番組を見るようになっていた。
そういえば、店にはユニフォームやサイン色紙などを一切飾っていない。「野球を売りにしたくないんですよね」と、さらりと言った。これが、この男の覚悟なのだろう。
「10年後、15年後、20年後でも、味が変わっていないと思われる店にしたいです。高級な寿司屋さんとか和食屋さんとかは旬のモノを出して美味しいけれど、僕はそういうスタイルじゃありません。居酒屋と同じ。いつ来ても、サジのところは美味しいと言われるように、味を変えないことを心掛けています」
上皮、つくねがやってきた。ビールをおかわりする。さあさあ、乾杯といこう。
〈続く〉