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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「野球を売りにしたくないんですよね…」“阪神Vの立役者”が北新地で人気店を営むまで…現役引退→初めて包丁を握った右腕の「第二の人生」
posted2023/10/20 11:30
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
JIJI PRESS
「あえて『とり焼き』と名前を決めたのは僕なんです。『焼き鳥』は串のイメージがありますが『とり焼き』だと、どんなのが来るのかなと思いますよね。串のイメージを外していただきたくて」
そう話すのは、大阪・北新地で「とり焼き さじ」を営む桟原将司だ。白球を包丁に持ち替えて、新しい世界に飛び込んでから10年目に入った。かつてプロ野球選手で、阪神のセットアッパーだった男は、東京の銀座と肩を並べる日本有数のネオン街で、コロナ禍の荒波にも耐え、現役時代に惚れ込んだ味でサラリーマンやホステスたちの胃袋をつかんできた。
鉄板と炭火で、自ら鶏を焼いて食べる、風変わりなスタイルである。ジュッという音がはじけると、香ばしい匂いが漂う。店主イチ押しの上モモを頬張るとコリコリッとする噛みごたえとともに、肉脂の旨味がじわっと口のなかに広がっていく。ビールが進み、至福のひとときを味わえる。
「上モモとつくねと皮が売りで、親鶏を使っているので歯ごたえがあります。『とり焼き』のお店は、実は三重県には普通にあるんです」
たとえば、ブランド牛で全国的に有名な松阪市は味噌だれをつけて食べる鶏焼きがソウルフードだ。大阪でも同じように、タレをつけて食べるのが一般的だが、塩昆布をつけるのが「さじ流」である。
「1年続く飲食店が3割」
北新地。
キ・タ・シ・ン・チ。
煌びやかなネオンと華やかなホステスに彩られた街に、今日もまた酔客は吸い込まれていく。だが、この響きに浮かれてはいけない。
「1年続く飲食店が3割」。「10年続けば老舗」ーー。
この街の言い伝えである。3000軒近くの飲食店がひしめくといい、たとえ新規開店しても、同じ業態のライバル店が山ほどある。食通たちを満足させられなければ、客足は遠のき、やがては消えていく。桟原は、そんな超激戦区で2014年9月に開店してから、どっしりと踏ん張ってきた。