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「ノックを受けるのも難しく…」守備の名手・藤田一也は二遊間にこだわり、引退を決めた 本人が明かす「23回の胴上げは僕から」「去年のCSは…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/02 11:03
9月27日の引退セレモニーでファンに別れを告げる藤田。その数日後、引退に至るまでの思いを赤裸々に語ってくれた
若い選手からしたらチャンスしかない
「レギュラーになるチャンスって誰にでもあるんですよ。僕が入団したときのことを考えれば、誰も41歳までやるなんて想像がつかなかったと思うんです。そんな僕でもレギュラーになれたり、活躍することのできたシーズンがありました。19年間は、振り返ればあっという間だったし、時が過ぎるのがとても早い。だから今やらなければ本当にもったいない。若い選手からしたらチャンスしかないんだから、今やるしかないんですよ」
藤田の口調に熱が帯びる。球界を去っていった選手には、自分よりも技術とフィジカルで勝る人間がたくさんいた。
「9割方そうだと思いますよ。学生時代も同じで、鳴門第一という有名ではない高校から野球の強い近畿大に入って、まわりを見れば名門校出身者ばかりでした。厳しいなと思ったけど、どうやったら勝つことができるのか考えに考え、いろいろやった結果、僕はプロに行くことができたんです。プロになってからも、負けず嫌いっていうのもありますけど、どうすれば上達できるかを自分の中で考えて、実践してきました。5時間の練習も、考えてやることができれば7時間の濃さや価値になる可能性がありますし、そういうことを若い選手たちには理解してもらいたい」
CSのあの瞬間を待ち受けにしていた
野球のセンスは高くてもケガが多く、決してフィジカルに恵まれてはいなかったが、徹底した練習と準備によって藤田は、ここまで現役を務めあげることができた。思考力と洞察力、そして努力しつづける才能――これこそが藤田のプロとしての最大の武器だったといってもいいだろう。
さて、藤田の戦いはまだ終わらない。DeNAはこれからCSを戦い、日本一を目指す。思い出すのは昨年のCSファーストステージ阪神戦、藤田が最後の打者となりDeNAのシーズンは終わった。一塁にヘッドスライディングしてしばらく立ち上がれなかった藤田の姿が今でも目に焼き付いている。藤田自身、あの悔しさを忘れないためにスマホの待ち受け画面にし、引退セレモニーのスピーチでも、あのシーンについて触れると、言葉に詰まり、涙があふれた。
1年前の悔しさを払しょくするためにも、同じステージで勝負しなければならない。
「ああやって終わらせてしまって、みんなには申し訳なかったという思いばかりなんです。ただ『去年の借りを返す』なんて、簡単には言えないし、そんな軽いモノではないっていう思いが自分の中にはあるんですよ。今はただ、チームがひとつになって上を目指すだけ。僕の力なんて微々たるものでしょうし、プレー以外のところでもしっかりサポートしていきたいと思っているんです」
引退する藤田への三浦監督の思い
個人的なことよりも、まずはチームのため。こういった献身の姿勢が、藤田の求心力に繋がっているのは間違いない。
夏場に一軍昇格してから、代打として打率.300、出塁率.364(10月2日現在)。楽天時代に日本一を経験した、藤田の“いぶし銀”の働きは、きっとチームに大きな力を与えるはずだ。
これからの戦いを控え、三浦監督は、藤田について次のように語っている。