「まだシーズン中ですし、クライマックスシリーズ（CS）も控えているので最終打席ではないかもしれないけど、これまで関わってくれた知り合いの方々の前でプレーするのはこの打席で最後やなって思うと自然に涙が……。僕が招待した人以外に元チームメイトやOBの方々もたくさん来てくれていて、ホントもう感謝しかないです」

　プレイヤーとしての質の高さはもちろん、藤田という選手は、誠実で誰をも魅了する人間性に溢れている。同僚の戸柱恭孝は「一也さんは“人間の鑑”ですよ」と、いつも言っているぐらいだ。

　また藤田は、この打席の前の9回表一死から守備にも入っている。ポジションはかつての牙城であるショート。試合中、三浦大輔監督から「一也、どこ守りたい？」と言われて、藤田は「ショートでお願いします」と即答したという。

やっぱり最後はショートを守りたい

「僕は横浜時代、セカンドよりもショートを守ることが多かったですし、それこそ石井琢朗コーチを超えることを目標に入団したんで、やっぱり最後はショートを守りたいなって。代わってくれたリン（林琢真）には悪かったですけど」

　東北楽天ゴールデンイーグルスへのトレードでDeNAを離れた2012年シーズン以来となる、横浜スタジアムをホームとしてのショート。守備機会こそなかったが、懐かしくも馴染みのある景色がそこには広がっており、藤田の五感を刺激した。

　守備でも打席でも、そしてセレモニーでもハマスタに響き渡った藤田への大歓声。2年前、10年間離れていたDeNAに戻ってきた際、「ハマスタの歓声って12球団のグラウンドで一番響くんですよ」と、うれしそうに語っていた藤田だが、今回まさにそれを浴びつづけて、なにを思ったのだろうか。

戦力外でも現役続行をした理由に「声援」があった

「格別だったし、最高でしたよ」

　満足そうに藤田はそう言うと、少し思いにふけるような表情を見せた。

「ファンの歓声って言葉にしづらいんですけど不思議なんですよ。楽天でリーグ優勝と日本一になったとき、打席に入って大歓声を浴びるたびに、何とも言えない感情が沸き上がったんです。言い方は難しいんですけど、クセになるというか、あの歓声をまた浴びたい、あの中でプレーをしたいって気持ちが忘れられなくなるんですよ」

日本シリーズに出場した2013年はベストナインとゴールデングラブ賞を獲得　©Naoya Sanuki

　結果を出してきた人間しか味わうことのできない、大いなる心の揺さぶり。

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