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「ノックを受けるのも難しく…」守備の名手・藤田一也は二遊間にこだわり、引退を決めた 本人が明かす「23回の胴上げは僕から」「去年のCSは…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/02 11:03
9月27日の引退セレモニーでファンに別れを告げる藤田。その数日後、引退に至るまでの思いを赤裸々に語ってくれた
「楽天を離れる前はコロナで無観客試合とかあって、仕方がないこととはいえ自分の中で釈然としないものがあったんです。お客さんの大声援の中でプレーしたいなって。だから2年前に戦力外通告を受けたとき、それもあって諦めがつかなかった。現役引退するんじゃなく、いやもう一回、あの中でプレーするんだって。そうしたらベイスターズから声が掛かって、ありがたいことにファンの方々からすごい声援をいただけた。だからもうこんな幸せなことはないんですよ」
藤田にとって大歓声の中に身を置くことが何にも代えがたい瞬間であり、選手生活をつづける活力になった。
引退の理由のひとつになった「守備」
「間違いないですね。僕はあまり目立ちたくない性格なんですけど、やっぱりクセになるんですよ」
そう言うと藤田は快活に笑った。
藤田は引退を決めた理由のひとつとして「自分の持ち味である守備で思うようなプレーができなくなった」と会見で語っていたが、具体的にはどういうことなのだろうか。
「守備ができないことイコール、体のコンディションの問題もありました。春先に右のふくらはぎをやってしまったんです。昨年はファームの試合でセカンドの守備に入っていたんですけど、今年は練習でもノックを受けるのが難しくなってきてしまい……。サードやファーストの守備に入ることもありましたが、自分のプレースタイルを考えると、そうではないという思いや悔しさもあって、もうそろそろ引退しようって……」
守備の名手の矜持と言うべきか。“ハマの牛若丸”と称され、二遊間を華麗に舞った藤田は、それがもう叶わないと悟り、静かにグラブを置くことを決意した。
このままだったら、お前はプロを続けられないよ
藤田がDeNAにいた2年間。ファームで過ごすことが多かったが、そこには確実に意味があったという。
「若い選手たちから刺激をもらえたし、それに年齢が離れているので、1年目はちょっと距離があったんですけど、2年目になると慣れもあってか若い選手たちが気さくに悩みを打ち明けてくれたり、またこっちも『このままだったら、お前はプロを続けられないよ』って厳しいことも言えるようになったんですよ。それはすごく良かったと思うんです」
会見で「苦しかった」と語っていた、19年間のプロ生活。自分自身もがく中、一方でプロの世界から去る数多くの選手の背中を見送ってきた。だからこそ若い選手を見るとアドバイスを送りたくなる。