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「ボールを持つと人が変わる」“シャイな爆速ウイング”ジョネ・ナイカブラの愛され秘話…“無印”だった留学生がラグビー日本代表になるまで
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/28 17:08
チリ戦、イングランド戦に続き、サモア戦の先発メンバーにも名を連ねたジョネ・ナイカブラ(29歳)。摂南大学時代は無名に近い存在だった
東芝の練習に参加「キミにとって大事な1週間になる」
気になるのはケガの多さだった。摂南大入学後は絶えずケガに見舞われ、1年間を通してプレーしたことがなかったのである。
「スピードを評価されてセブンズの日本代表に選ばれたりもしていたのですが、そこでまた骨折をしてしまったんです」
ケガの履歴を調べてみると、肉離れなどの筋肉系やじん帯損傷のような関節系のケガはほぼない。骨折が圧倒的に多かった。
望月が振り返る。
「これはどうしてなんだろうと考えたときに、いくときはつねに100でプレーするので、身体がついていかないのだろうと。ゼロか100ではなく、70とか80のプレーを覚えさせればケガは減るだろうし、きっとすごい選手になるんじゃないかということで……」
望月は思い切ったアクションを起こす。摂南大が夏合宿を終えた長野県・菅平高原から、東芝が活動する東京都府中市へジョネを連れていったのである。現地で様々な大学を視察していた望月の帰京日と、摂南大の合宿最終日が偶然にも同じだったことから、河瀬監督の許可を得て練習に参加させることにしたのだった。
「ジョネをレンタカーに乗せて上田駅まで行って、そこから新幹線で大宮まで行って、在来線で府中市内へ戻りました。ジョネは日本語をそれなりに分かっていて、こちらの言うことは理解できていましたし、ある程度は話すこともできていました」
望月はジョネに告げた。
「明日から練習があるけど、キミにとってすごく大事な1週間になる。ここでアピールできないと、大学を卒業したらフィジーへ帰らなければいけなくなる。頑張ってアピールしてウチが獲ることになったら、日本でラグビーを続けられる。キミの人生にとってターニングポイントの1週間だから、遠慮しちゃいけない。コミュニケーションをどんどんとって、どんどんチームの中へ入って、ボールを持ったら強みのキャリーをどんどん出すんだよ、と伝えました」
日本でラグビーを続けたいという思いが、ジョネの心に火を点けた。日本でラグビーを続けることによって、フィジーに居る家族を経済的に支えたいとの思いもあったかもしれない。セブンズで負ったケガから回復したジョネは、鮮明なる解答をピッチ上に刻む。