まだ新型コロナウイルスが5類感染症へ変更される前だったこともあり、立ち会いはできたがその後の面会は一切禁止。入院中も一人で留守番していた夫に、息子の写真や動画を送ると、「誰もいない公園で、コーヒーを飲みながらこの幸せを噛みしめたい」と素直な喜びを伝えてきた。退院後も家事や育児、できることはすべて担う、と想像をはるかに上回る子煩悩ぶりを発揮していると感謝する。

「子どもが増えれば、生活も子ども中心になるので、一日の使い方も変わる。相変わらず私のしゃべり方はスローですけど（笑）、今のうちに早く洗濯しなきゃ、これやっておかなきゃ、と予測して早く動くようになりました。もちろん日によっては、今日は何をしてもダメだからあきらめよう、と思う日もありますよ。妊娠も出産も子育ても初めてだから、全部手探りだけど、よく寝てくれるし育てやすい部類に入るのかな。何が正解か、今はわからないけれど、夫も私も子どもを中心にして、より一層“チーム”になった感じはあります」

　産後の体調もよく、退院後も順調そのもの。冗談交じりに「このまま試合に行けるんじゃないかと思うほど元気だった」とはいえ、改めて実感した。

「妊娠、出産で腹筋もなくなるし、全体の筋肉量ががくんと落ちる。この状態から現役に復帰して、オリンピックに2回も出たうえにキャプテンもやった（荒木）絵里香さんにはリスペクトしかありません」

出産を経験して、リオ五輪に出場した荒木　©︎JMPA

母になって「弱くなった気もする」

　これまでバレーボール選手としていくつもの経験を重ね、女性としても伴侶と出会い、結婚して夢だったカフェを経営してきた。自身でも「やりたいことはやってきた」と言うのは本心だが、新たにそこへ母になる経験も加わった。

　もともと子どもが大好きで、結婚や妊娠の前から友人の子どもをあやしたり、遊ぶのは得意。カフェの近くでバレーボールをしていた少女を見かけた時は、一緒にパス交換するのが楽しかった。結婚から長い年月が過ぎ、ようやく授かった我が子の誕生は大きな喜びで、格別の愛情を注ぐのは当たり前。

　ただ、ふとした日常の中で見える景色が変わる喜びを感じる一方、それまでとは異なる感情も抱くようになった。

©︎Asami Enomoto

「いろんな人から、いつもあっけらかんとして明るいし、何も考えていないように見られがち。確かに何も考えていないから（それで）合っているし（笑）、ポジティブな感じで見てもらうことも確かにそうだよな、と思うんですけど、今はすごくネガティブなところが見えるようになったり、そういう自分が出てきた気がするんです。たとえばみんなと食事に行く時も、こういうことを今しゃべっていいのか、引いたほうがいいのか。言ったら言ったでやっぱりあんなこと言わなきゃよかったかな、とかすごくウジウジ考えちゃう。今までより、弱くなった気もします」

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