感謝をより実感できる出来事があった。昨秋、日本選手権で優勝して後に引退試合が行われた。チーム関係者、家族らが大勢詰めかけた和やかなムードの中で行われた最後の試合。河合は笑顔でユニホームを脱ぐことができた。

「たくさんの人が集まってくれたんですよ。予定していた日が雨で延期になって、2日間もユニホームを着ることができました（笑）。いい意味でスッキリと終わることができました。引退試合の日に限って、どこも痛くなかったんですよ。最後には色んな方に声を掛けていただいて。最高の引退だったと思います」

　恩師である大藤監督には、現役引退の報告をした際に、電話越しでこんな問いかけをされた。

「プロに行かないと選択したことはどうだった？と聞かれました。行かなくて良かったですと答えましたが、大藤先生はきっと自分をプロに行かせたかったんだろうなと思います」

　その後に恩師に掛けられた言葉が河合の宝物となっている。

『俺の監督史上、最高傑作の打者はお前だ』

　多くのプロ野球選手を育ててきた名将は、河合の打撃センスだけを見て、そう言ったのだろうか。

　期待を一心に背負って甲子園のグラウンドに立ち、大きなミスを犯しながらも最後のボールを掴んだこと。腐ってもおかしくないほどケガに苦しめられながらも、自分に矢印を向けてひたむきに野球に向き合ってきたこと。その姿勢に賛辞を送ったのだろう。

引退試合で笑顔をのぞかせる河合完治　©︎TOYOTA

引退した今なら、あの映像を…

　今年、小3から野球を始めて以来、初めてバットを振らない夏を過ごす。野球が恋しくならないのかという問いに、河合は笑顔で即答した。

「自分はもう野球をやりたいとは思わないんです。それは嫌いになったとかネガティブな意味ではなくて、いい形で引退できたというのが一番にあるので。野球はいい意味でお腹いっぱいです。でも、僕は野球に育ててもらったので、これからは野球界もそうですが、大藤先生にも恩返しをしていきたいと思います。試合はもちろん見ますよ。堂林の応援や、あとは甲子園の試合も」

　ゆっくりできる時間ができた今だからこそ、またあの夏を思い返すことができる。となると、決勝戦の映像は……。

「死ぬ気で過ごした3年間の最後の試合なので、せっかくなら当時のメンバーと見てみたいですね。『おい、何、フライ落としているんだよ！』って笑いながら。やっぱり1人では見られないですよ。あの時の超満員の雰囲気で地に足がついていなかった感覚や、もし自分のミスで負けていたらという思いがまだあって、映像を見れば当時の感覚を思い出してしまいそうで（苦笑）」

　でも、と河合は力強く言葉を続けた。それは、あのミスで得た教訓だった。

「大事なのはミスをした後の行動だと思うんです。その行動次第でミスを続けてしまうこともあるし、なくすこともできる。行動を起こさないと未来は変えられないですからね。ミスをした瞬間からの行動で変われるということを球児の皆さんには伝えたいです」

　苦い思い出でも、それも自分の人生。22年間の野球人生に終止符を打った河合は胸を張ってそう言った。

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