「共栄学園にお世話になっている茂呂なんか、ウチにいた頃はこんなに小さくてね。160cmぐらいだったんじゃないかな。本人も悩んでて。でも、卒業するまでの半年ぐらいで10cmぐらい伸びて。それが、今は178cmの81kgでしょ。ほんと、この前も決勝戦見ていて、知らない高校生を見てるみたいで。なんか不思議な気持ちだったですね」 

　西尾先生が、東京都の中学校教員になって、もう40年以上になる。いまだエネルギッシュに見えるから、とてもそんなふうには見えないが、四捨五入したら「70歳」だ。

共栄学園のエース左腕・茂呂潤乃介。中学時代は160cm程度の小柄な体格だったという　©SANKEI SHIMBUN

「中学野球がゴールじゃない、伸びるのは今だけじゃない」

　今の上一色中に赴任してからだって、もう18年目になる。

「中学野球がゴールじゃないんだよ、人間が伸びるのは今だけじゃないんだよって茂呂にも、何度も言ってました。そこが、自分の指導のキモになってると思います」

　先に行って、こんなに伸びるのはどうしてか。西尾先生は、上一色中で彼らにどんな指導をしてきたのか。 そこを聞きたかった。

「たまたま今年名前が出てきた卒業生たちも、上一色に入ってきた頃はごく普通の中学１年生で、特別上手な子たちが集まったわけじゃないんです。プロに行った深沢だって、同期の中でもうんと小さかったし、横山にしたって、ぜんぜん目立つ子じゃなかった。

　だから、いずれ大きくなる時期が必ず来るからしっかり食べろよ、野球が上手くなる時期が必ず来るから、根気よく練習しようなって、絶えず言ってました。１回や２回じゃ、言われても本気にしない。繰り返し、繰り返し、しつこく言ってあげるんです」

DeNAの深沢鳳介は昨季、ドラフト5位でチームに入団。未来の先発ローテ候補として期待される　©JIJI PRESS

　高校に進学したOBたちの影響も強いという。

「彼らが帰ってきて、後輩たちに話してくれるんですよ。高校行って、身をもって実感するんでしょうね、頑張ってれば、どっかで体も野球も伸びるってことを。それに、見ればわかりますよね、中学生たちにも。去年一緒にやってた先輩たちが、びっくりするほど大きくなってるんですから」

　上一色中のOBたちは、何かにつけて、グラウンドにやって来る。「背番号もらいました」「ケガ治りました」「甲子園決まりました」などなど。

　厳しい指導もしてきた西尾先生だが、きっとOBたちの心の中には、上一色のグラウンドでキラキラッと輝いていた自分の記憶があるからだろう。

「上で一生懸命頑張ってるヤツは戻ってきますね。でも、頑張ってないヤツは来ません」

  いつも元気な西尾先生が、ちょっとしょんぼりするのは、こういう時だ。

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