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「一発でダウンしなかったことが災いだった」井上尚弥の“追い討ちの左フック”に英国人記者も興奮「同じ時代を生きる私は幸運だ」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/07/27 11:03
識者たちの想像を超える完勝KO劇を披露した井上尚弥。ほとんどの試合をチェックしてきたグレイ記者も興奮覚めやらぬ様子だった
井上は次の試合でWBAスーパー、IBF同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)と4団体統一戦を行いたいと述べ、タパレスも同意しました。タパレスは前戦でムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)という優れた王者に勝ち、世界レベルの実力を証明した好ボクサー。そのタパレスも井上に勝つチャンスがあるとは思えません。パワー、テクニック、スピードのどれをとってもタパレスに超越的なものはなく、井上はすべての面で上回っており、番狂わせが起こるカードとは考えられないのです。
井上のリスペクトを勝ち取り、警戒されるには一定以上のパワーが必須です。プロキャリアを振り返っても、井上を深刻なトラブルに陥らせたのは初対戦時のドネアだけ。ドネアもまたとてつもないパンチャーであり、あの試合では第2ラウンドに左フックを当てて井上の目を骨折させました。フルトンにはそれだけのパンチ力はなかったですし、総合力で大きく劣るタパレスや、それ以外の選手の戦力を見渡しても、井上がスーパーバンタム級で負けると思えません。今後、井上が敗戦を経験するとすれば、それはやはり“体重に負けた”場合になるのでしょうね。
フェザーへの昇級はあるか?
最近では世界4階級制覇王者のサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)がライトヘビー級に上げ、ドミトリー・ビボル(ロシア)に負けた試合では“ウェイトを上げすぎた”という見方がされました。駆け足で階級を上げていった場合、そういうことが起こるものです。ただ、井上の陣営はより慎重に昇級を考慮している印象を受けます。
彼は大柄な選手ではありませんし、その気になればまだバンタム級でも戦えるのではないでしょうか。私が井上の陣営の人間だったとしても、スーパーバンタム級でこのまましばらく戦わせますし、フェザー級以上には上げさせません。
いずれフェザー級で戦うのだとしたら、井上対フルトン戦のセミファイナルに登場したWBO同級王者ロベイシ・ラミレス(キューバ)との対戦が実現するのかもしれません。アマでの実績豊富なラミレスもまた才能に恵まれたボクサー。ラミレスには“シャクール・スティーブンソン(アメリカ)に最後に勝った選手”という肩書もありますし、ラミレス対井上戦は注目のファイトになるはずです。
今後、井上はまだまだ多くのことを成し遂げていくと予測します。現役選手に関してこんな話をするのは早すぎるのかもしれませんが、井上は間違いなく“オールタイム・グレート”と呼ばれるべきボクサーだと考えます。間もなくPFPのトップに戻り、2階級で4団体統一を果たす史上初の男子ボクサーになるのでしょうから。フロイド・メイウェザー(アメリカ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)などと同じように、その名はボクシングの歴史上で永く語り継がれていくに違いありません。
井上がなし遂げていることはもう驚異としかいいようがないのです。そんな選手と同世代に生き、キャリアを間近で見ることができている私は、とても幸福で、幸運なのだという思いが心の中に湧き上がってきています。
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