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「フルトンの鼻血は“命取り”だった」“井上尚弥を最も苦しめた男”が見た、敗者の異変「井上くんに完敗でもフルトンは称賛されるべき」
posted2023/07/26 20:30
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph by
Naoki Fukuda
4年前に引退、いまは指導者としてボクシングと関わる田口は、歴史的な一戦となった井上vsフルトン戦をどう見たのか。本人に聞いた。
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2023年7月25日、有明アリーナでスティーブン・フルトンを8ラウンドKOで下し、WBC/WBO世界スーパーバンタム級タイトルを獲得した井上尚弥。25戦全勝22KOと、進化し続けるモンスターの行く手を阻む者は、今のところ見当たらない。
井上尚弥のプロ4戦目の相手であり、日本ライトフライ級王座を懸けて戦った田口良一に、フルトン戦について訊いた。
前日計量で挑戦者は王者を睨みつけ、闘志を露わにした。ここ数年の井上には珍しい姿だった。
「戦う気持ちが漲っていて、戦士モードなんだなという思いで見ました。自分との試合では、カメラマンの方々に『フェイスオフしてください』と言われて、ただやったという感じでしたね」
田口は今回の井上のパフォーマンスを予見していた。
「KO勝ちを予想していましたが、井上くんの爆発力は、相変わらず凄いの一言です。ただ、井上くんがなかなかパンチを当てられない試合でもありましたね。序盤は距離が遠かった。だから当たらない。ノックアウトシーンまでは、これまでの井上くんのキャリアで、一番ヒット数が少なかったんじゃないでしょうか。
フルトンも怖いのか、踏み込みが足りなかったように感じます。フルトンのパンチは、ほとんど当たっていませんよね。井上くんは5ラウンドにワンツーを喰らいましたが、浅く、効いてはいませんでした」
「フルトンの鼻血」がきっかけだった
前4冠統一バンタム級チャンピオンは、オープニングベルから、フリッカースタイルに構え、ボディーへのジャブを多用した。そして、フルトンの攻撃をバックステップで躱すシーンが目立った。
「井上くんは、左ボディーストレートから右ストレートを顔面に、という練習を重ねたでしょう。それが、功を奏したと思いました。距離感の掴み方、スピードも一流ですから、ディフェンス面は問題無しでしたね。自分との試合時から、バックステップの速さは感じました。当時からとんでもないレベルでしたが、あれから10年経って、更に磨きがかかって、今の彼は遥かに上にいますから」