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「一発でダウンしなかったことが災いだった」井上尚弥の“追い討ちの左フック”に英国人記者も興奮「同じ時代を生きる私は幸運だ」
posted2023/07/27 11:03
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
井上尚弥(大橋)の驚異的なまでの強さに度肝を抜かれたのは、日本のファンだけではない。7月25日、有明アリーナで行われたWBC、WBO世界スーパーバンタム級タイトル戦で、挑戦者の井上は王者スティーブン・フルトン(アメリカ)に圧倒的な8回KO勝ち。世界中で生放送&配信された一戦で、井上の鮮やかなボクシングは各国の関係者たちを震撼させるのに十分だった。
試合直後、世界で最も権威のあるボクシング専門誌『リングマガジン』の元編集人(マネージング・エディター)であり、現在は『スポーティングニュース』で健筆を振るうトム・グレイ氏に意見を求めた。
井上が披露した余りにも見事なボクシングの興奮覚めやらなかったグレイ氏は、リングマガジン、スポーティングニュースの両方でパウンド・フォー・パウンド・ランキング選定委員を務めている。井上を絶賛するその言葉を聞く限り、日本のボクシング史上最高傑作が欧米の主要媒体から再び“世界最高のボクサー”として認められる瞬間は近そうである。
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パワーよりもテクニックに驚愕
フルトンを撃破した井上のボクシングはあまりにも素晴らしいものでした。井上のドラマチックなKOパワーは誰もが認識している通りで、今戦でも最終的にはそれで魅了してくれました。ただ、この試合で私が何よりも驚かされたのは、見事なまでのテクニックです。ボクシングスキルでは最高級と目され、しかも上の階級の無敗の統一王者だったフルトンを井上はアウトボクシングで上回ってみせたのです。
井上のジャブは有効で、左の差し合いでフルトンを圧倒しました。身長、リーチの差ゆえに試合前、アウトボクシングではフルトンに分があると目されていましたが、井上のタイミングの良さ、距離感は抜群でした。そのスピード豊かなジャブ、打ちにかかったときのパワーゆえに、フルトンは前に出ることを躊躇わざるを得なかったのです。