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「一発でダウンしなかったことが災いだった」井上尚弥の“追い討ちの左フック”に英国人記者も興奮「同じ時代を生きる私は幸運だ」  

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2023/07/27 11:03

「一発でダウンしなかったことが災いだった」井上尚弥の“追い討ちの左フック”に英国人記者も興奮「同じ時代を生きる私は幸運だ」 <Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

識者たちの想像を超える完勝KO劇を披露した井上尚弥。ほとんどの試合をチェックしてきたグレイ記者も興奮覚めやらぬ様子だった

 初回はまだ様子見の感もありましたが、2回以降は井上が一方的な戦いを続けました。実は私は3回はフルトンにポイントを与えたのですが、迷った末にフルトンに寛容になった結果であり、そのラウンドも井上がペースを明け渡したと見たわけではありません。4〜7回の井上は支配的な戦いを続け、おそらくすべてのラウンドを制していたでしょう。2回以降、2人の力量差は明白。フルトンは世界レベルの選手かもしれませんが、井上は一段上のエリートレベルであることを証明しました。

 フルトンはパワー以外のすべてを備えた選手ではありますが、21勝中8KOという戦績が示す通り、一発で流れを変えられるパンチャーではありません。そういうタイプのボクサーがアウトボクシングで上回られてしまえば、できることはなかったのです。

 試合前、バンデージの巻き方に関して文句を言ったのはマインドゲームの側面もあったのでしょうが、結果的には井上を怒らせただけで、いいアイデアではなかったのかもしれません。それでもフルトンは勇敢に戦い、8回のあの痛烈なノックダウンからよく立ち上がってきたと思います。あそこまで一方的にやられ、倒され、勝機が見当たらない状況ながら、そのままキャンバスに寝ていなかったことは評価されてしかるべきだったとは思います。

「すぐに倒れていたら、回復したかもしれない」

 そんなフルトンを葬った井上のフィニッシュは今回も強烈でしたね。序盤からいいパンチを当てていましたが、深刻なダメージを与えたのは8回の右パンチが最初でした。その一発でダウンしなかったことが、フルトンには災いしたのでしょう。あそこですぐに倒れていたら、回復の時間が得られ、試合はもう少し延びていたかもしれません。ただ、右一発で凍りついたフルトンが追い討ちの左フックを無防備な状態で浴びたことで、この試合の結末は早まりました。

 井上は現役最高級のフィニッシャーとして知られており、そのキラー・インスティンクトは今戦でも飛び抜けていました。初めてのKOチャンスで即座にパンチをコンビネーションでまとめ、あっさりとノックアウトしてしまったのですから。誰もがあのようなKOシーンを予期し、実際に期待に応えてしまうのだから、“モンスター”の面目躍如としか言いようがありません。

【次ページ】 井上を追ってきた米記者「ベストファイト」

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