炎の一筆入魂BACK NUMBER
《黒縁メガネの仕事人》1ゲーム差2位で前半戦ターンのカープを支える、藤井彰人ヘッドコーチの貢献と成果
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNanae Suzuki
posted2023/07/18 11:00
ベンチでは常に寄り添うように戦況を見守る藤井ヘッドコーチ(左)と新井監督
数日後、電話ではなく、直接会って答えを告げた。新井監督も大切にする「フェーストゥフェース」で、ともに戦う意思を伝えた。
現役時代を含め5球団目となる新天地は広島に決まった。
現役時代は身長170cm、80kgと小柄ながら、生き残りが厳しいプロの世界で専門職の捕手として、近鉄から楽天、そして阪神と17年プレーした。
2001年は前年の右ひざ靱帯断裂のリハビリによって1試合の出場に終わり、楽天在籍最終年の2010年も出場数は8試合だった。それでも01年は日本シリーズに出場し、10年も開幕戦でマスクを被った。17年間、一軍で必要とされなかったシーズンは一度もない。
「いやいや、現役生活の中でも数年しか試合に出ていないようなもん。打てなかったし、試合にも出られなかった。だから、そういう選手の気持ちは分かるかもしれない」
通算1073試合出場という数字が謙遜を否定するが、そんなおごらない自己評価が指導者としての土台となっているのかもしれない。
独立リーグでの指導経験
成功体験による指導を押し付けることも、型にはめた指導もしない。現役を引退した翌年、阪神球団から派遣された独立リーグ福井での指導経験も大きい。プロでは当たり前にできることも、できない選手がいる。伝える言葉や実践させる指導法を工夫しながら、厳しさだけでなく、寄り添う大切さも学んだ。
一方通行にならないのは指導だけでなく、首脳陣同士の連携でも同様だ。指導歴はあっても、ヘッド格は初めて。それでも、コーチ陣のリーダーとしての視野の広さ、包容力、決断力が感じられる。新井体制が始動した昨秋キャンプから、担当コーチには積極的な意見や提案を求めた。まだ活発と言えない意見交換も、徐々に浸透はしている。