炎の一筆入魂BACK NUMBER
《黒縁メガネの仕事人》1ゲーム差2位で前半戦ターンのカープを支える、藤井彰人ヘッドコーチの貢献と成果
posted2023/07/18 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Nanae Suzuki
黒縁眼鏡に、赤いユニホーム姿もだいぶ馴染んできた。今季から広島の指揮を執る新井貴浩監督の隣にはいつも、藤井彰人ヘッドコーチがいる。
戦況を見つめながら、後手にならぬよう一手先、二手先を読みながら指揮官にいくつか選択肢を提示して相談する。監督の意見を聞くだけのイエスマンではなく、対案を出したり、ブレーキ役となったりもする。また、練習中はノックバットを手に動きまわり、試合中に選手が死球を受ければ、真っ先にベンチを飛び出す。喜びを爆発させる新井監督が目立つ隣で、負けず劣らずの感情表現も見せる。
チームが勝てば「選手のおかげ」と言う指揮官が、チームがうまく回っている状況について問われれば「ジェイ(藤井ヘッド)が本当によくやってくれている」と言う。
新井監督率いる広島は、前半戦を47勝38敗。首位阪神に1ゲーム差の2位で折り返した。前評判を覆す健闘ぶりに、参謀の存在は欠かせなかった。
同学年監督からの誘い
阪神バッテリーコーチとしての役目を終えた昨年オフ、着信音とともに携帯画面に「新井貴浩」と表示されたのを確認して、通話ボタンを押した。いつもの明るい声のまま告げられた言葉に、虚を突かれた。
「監督をやることになった。藤井、一緒に来てくれへんか? ヘッドコーチやってくれんか?」
「何、言うてんの?」
思わず突っ込んだ。冗談だと思ったからだ。だが、返ってくるのは笑い声ではなく、同じ言葉。それでもやはり、笑って突っ込んだ。何度か同じやりとりを繰り返すうちに、受話口から聞こえる声が本気だと分かった。
不安がなかったわけではない。ただ、自然と高鳴る胸の鼓動が、答えだった。