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「テレビカメラには映らなかった」大谷翔平の笑顔、ダルビッシュが佐々木朗希にかけた忘れられない言葉…“ウワサの”WBC密着映画、何がスゴい?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2023/06/15 06:00
WBCのロッカールームで。笑顔で会話する大谷翔平とヌートバー(手前)
・アメリカンフットボール
フィラデルフィア・イーグルス
ミシガン大学
・サッカー
マンチェスター・シティ
トッテナム
アーセナル
・ラグビー
オールブラックス
といった人気チームが並ぶ。
取材を許可することは、それはそのまま莫大な収入につながる。そしてその対価として、監督/カメラマンは試合中でさえもカメラを回すことを許される。もはや、文字を生業とするジャーナリストには及ばない領域となり、密着ものの価値は高まった。商業的にも大きいし、記録的価値もある。
「悩める四番問題」吉田をちらりと見た選手たち
今回、カメラを回しているのは三木慎太郎監督。
天理高校野球部出身の三木監督はJ SPORTSなどで活躍し、すでに2017年のWBC、そしてプレミア12の侍ジャパンの映画も作っている(今日、全日本大学野球選手権を見ていたら、クレジットのプロデューサーのところに監督の名前を発見)。
今回の仕事は1カ月半の間に主役が刻々と変わっていく様子、「流れ」を見事に再現している。
選考会議からキャンプ、ダルビッシュの参加、ラーズ・ヌートバー、大谷の合流、そして東京1次ラウンド。骨折、被弾、声出し、マイアミ・フライトと物語は続いていき、観客は3月の熱狂を追体験する。
そして改めて、野球という競技のマネージメントの難しさを実感した。
準々決勝の試合前、栗山監督が打順を発表するのだが、「4番 レフト吉田正尚」という声が聞こえた瞬間、複数の選手が吉田がいるであろう方向をちらりと見るのだ。
村上宗隆と吉田の入れ替え。それはチームにとっての「波紋」であることがうかがえる。
打順の入れ替えとは、チームという生態系にとって極めてセンシティブなものであり、ゲームの世界とはワケが違う。
扱うのは人間であり、だからこそ、監督にはヒューマンスキルが求められる。
栗山監督のマネージメント・スキルが、このチームにはピッタリだったのが伝わってくる。
◆◆◆
そして映画は優勝に向かって進む。準決勝のメキシコ戦。敵軍レフト、アロザレーナの無双ぶり、大谷のポジティブな姿勢、村上の復活。
そして決勝、すべてのベクトルが勝利へと向かっていき、大谷対トラウトの瞬間を迎える。三振。この優勝が決まった瞬間の映像も素晴らしい。
実はこれ、三木監督が撮影しているのではないというのだ。「とある選手」が素晴らしいカメラワークを見せている。誰かは、みなさん検索して探してください。
そうそう、エンドロールで席を立った観客の方、残念でしたね。
あなたは大切なものを見逃してしまったことに、気づいているでしょうか?
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。