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「テレビカメラには映らなかった」大谷翔平の笑顔、ダルビッシュが佐々木朗希にかけた忘れられない言葉…“ウワサの”WBC密着映画、何がスゴい?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2023/06/15 06:00
WBCのロッカールームで。笑顔で会話する大谷翔平とヌートバー(手前)
栗山監督は選考会議の時点から源田の守備力とチームに対するコミットメントの強さを評価していた。チームの重要人物のひとりであることが分かるのだが、大会期間中、その力が不運な形で表現されることになる。
韓国戦での骨折だ。
治療に当たるスタッフと、源田の失望が生々しい。白眉といえるシーンだ。
この映画の価値は、試合中のダグアウト裏での様子が見られることで、これはテレビ中継でも、記事でも不可能な領域の素材である。
中でも準々決勝のイタリア戦での大谷翔平のアップビートな姿はぜひとも見て欲しい。
準決勝で被弾した後の佐々木朗希の様子も忘れられない。
先発投手は、本当に因果な商売だと思わざるを得ない。
この作品は、結果として1カ月半にわたる佐々木朗希の成長物語にもなっていて、私が好きなのは、宮崎キャンプの段階で、ダルビッシュ有が佐々木朗希にスライダーの投げ方を伝授するシーンである。
令和の怪物のスライダーはダルビッシュの助言によって改善し、回転数は2500。「スイーパーといわれるレベルです」とダルビッシュのお墨付きをもらう。
このシーンも忘れがたい印象を残す。
「密着もの」が生む莫大な収入
源田、佐々木朗希のシーンを紹介したが、もともと、スポーツには「密着もの」というジャンルがある。
振り返りものではなく、結果は分からないけれど、チームに密着して、その行方を見届けるというものである。
それはもともと、ノンフィクションの得意分野だった。
私が最初に触れたのは、1985~86年のインディアナ大学のバスケットボールチームの密着もの『瀬戸際に立たされて』(日本文化出版)というノンフィクションで、これには脳天を打たれた。とある記者がインディアナに引っ越して、チームに同行して驚きの物語を紡いだのである。
その文法を使って、私は1999年に創部100周年を迎えた慶応義塾大学蹴球部のドキュメント『慶応ラグビー 百年の歓喜』を上梓した。
密着ものはノンフィクションの専売特許のようなもので、映像はなかなか手が出せないエリアだった。なぜなら、ムービーの撮影は人数が多く(ディレクター、カメラマン、照明など)、予算も増えてしまう。人数が多ければ対象は身構えるもので、自然な姿に触れられない。
ところが、技術革新がこれを変えた。機材が小さく、軽くなって「ワンマンクルー」、ひとりが撮影することでも成立するようになった。
そしてまた、「密着もの」がクラブ、球団にとっては「売り物」になった。
Amazon のPrime Videoには、「All or Nothing」というドキュメンタリーシリーズがあり好評を博しているが、これまで登場したチームには……。