小澤は2019年W杯日本大会は逃したが、2021年の日本代表合宿にも招集された。社員選手としては快挙といってよい。

　サンゴリアスの社員選手は、シーズン中は主に午後から出勤。オフシーズンはフルタイムで働く。プロに転向してラグビーに専念したい――。そんな風に考えたことは一度もなかったのだろうか。

　それがないんですよね、と、小澤は朗らかに即答した。

「僕が入社した2011年はW杯イヤーで、同じフロアには社員として、その年のW杯に出場した平浩二さんがいました。働きながら日本代表を目指すのは普通、という感覚でしたね」

「ただ社員選手、プロ選手、どちらが良いかというのは自分の中では特にありません。自分の時代はそれが普通だったというだけです」

「それでも試合前後にお得意様から連絡がきたり、試合後に会場を回ると社員の皆さんが手作りボードで応援してくれたり。そういう時は社員選手で良かったなと思いました」

“最後のトライ”…控えめのガッツポーズ

　20年超のラグビー人生を振り返って、あらためてラグビーから受け取ったものを訊ねた。

　受け取った最高の宝物は、栄冠や栄誉ではなかった。

「サンゴリアスで優勝したことも良い思い出です。ただそれを超えてくるものは、尊敬できる、信頼できる、たくさんの仲間たちに会えたことです。それが人生の中で一番大きいものかなと思っています」

　そんな仲間への想いは、みずからの花道でも貫かれた。

　現役ラストゲームとなったイーグルスとの3位決定戦だ。小澤の意識は『引退試合』よりも『仲間たち』に向いていた。

「今シーズンは試合に出られず、ノンメンバーと過ごす時間が本当に多くなりました。引退試合という意識はなく、ノンメンバーの努力を証明する、という気持ちでしたね」

　仲間たちの努力を、チーム最終戦で見せつける。自身の引退試合であることは眼中になかった。

　そんな仲間想いの男への贈り物は、前半29分30秒だった。

　相手ゴール目前のラインアウトで、守備側のイーグルスが競り、こぼれ球になった。あちこちへ跳ねる、気まぐれな楕円のボールは、この日ラストゲームの男の前へ落ちた。

　巡ってきた楕円球を抱えた男は、ゴールを目指し、駆けた。タックルを受けながらも右腕を伸ばした。片腕一本で、トライラインの先に叩きつけた。小澤は控え目にガッツポーズをした。

「引退試合だから自分が、という気持ちはまったくなかったんですが、たまたまトライできました」

　約1年3カ月ぶりのトライは、現役生活最後のトライになった。仲間たちが駆け寄る。裏方に徹してきた職人を笑顔で祝福する。

　ラグビーを始めて二十有余年。最後の最後まで、小澤は宝物に囲まれていた。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。