ラグビーPRESSBACK NUMBER
「一度は死んだ命だと…」エディーの叱責、沢木敬介のクビ通告…どん底から日本代表まで上り詰めた“サラリーマン“小澤直輝（34歳）最後のトライ
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byAki Nagao
posted2023/06/14 11:01
今季限りで現役を引退した元ラグビー日本代表・小澤直輝（サンゴリアス）。入団当時の指揮官はエディー・ジョーンズだった（写真は2013年1月デビュー戦、当時24歳）
一念発起のポジション変更だったが、結果を残せなかった。もう引退かもしれない。弱気な言葉が自然とこみ上げてきた。苦悩に満ちた谷底を歩いていた、そんな時だった。
コーチとしてサンゴリアスにやってきたチームOBがいた。後にサンゴリアスの優勝監督になる沢木敬介（現・横浜キヤノンイーグルス監督）だ。ズバリ言われた。
もしも自分が監督だったら辞めさせている。お前はフッカーじゃない。
「コーチだった敬介さんからズバリ言われましたね。それで2016年、敬介さんが監督になった時に『フッカーはクビ。バックローな』と。そこからの気持ちは強かったですね。一度は死んだ命だと思っていました」
吹っ切れた小澤はバックローとして再々スタート。そして沢木新監督、流大主将体制の下、前年度トップリーグで9位だったチームがリーグ優勝、そして日本選手権の決勝に進出。小澤は先発No.8として起用され、76分間出場。SO小野晃征の5PGでパナソニックを15－10で降し――。
キャリア初の「優勝」を味わった。シルバーコレクターがついに頂点に辿り着いた。
「高校、大学も準優勝。日本一になれるチームに行きたいと思って、やっとグラウンドで優勝を経験できました。サンゴリアスのジャージーで戦った試合はどれも大切ですが、特別嬉しかったですね」
代表合宿前に渡された“商談資料”
その直後の2017年４月22日。
ジェイミー・ジョセフHC率いる日本代表に招集され、アジアラグビーチャンピオンシップの韓国戦で初キャップを得た。頂きの先に、もう一つの頂きが待っていた。
サントリーのサラリーマンは、そのまま大会テストマッチ４試合に出場。応援にきてくれた上司からは試合後に熱く労われた。上司はその時、小澤に後日の商談資料を手渡すことも忘れなかった。
愚直なフォワードに怪我は付き物だが、小澤もその例に漏れなかった。
4試合に出場した直後、5月27日だった。サントリーの練習で、右膝前十字靱帯を断裂。大怪我を負い、日本代表の隊列を離れた。
「（その後の欧州勢とのテストマッチに向けた）日本代表合宿にも呼ばれていたんですが、チーム練習でステップを踏んだら切れてしまいました。これは自分の中の感覚なので分かりませんが、ファーストキャップの韓国戦で右膝が腫れていました。そこですでに部分的に靱帯が切れていたんじゃないかなと思ってます」
初キャップを経験した小澤はその後の同シリーズでも3試合を戦っていた。這い上がってきた男は、無我夢中だったのだ。
