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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
野茂英雄“メジャーから姿を消した”空白の2年…何が? クラブハウスで私が見た“現役晩年の激変”「あのメディア嫌いの選手が…」
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/05/18 11:02
1995年2月、ドジャースと契約を結んだ野茂英雄。全米でトルネード旋風を巻き起こした
しかし08年の野茂は違った。以前では考えられなかったくらいによく喋る。囲み取材の後にテープ起こしをすると、野茂の談話だけでB6サイズのノートが3ページに及ぶほどの分量になった。以前なら1ページも埋まらないこともあったことを考えると、その差は歴然だった。
こぼした本音「投げるのが楽しい」
メジャーでの取材のやり方というのは日本とはまた違って独特なのだが、報道陣が選手のクラブハウスに入ることができるため、試合後に話を聞きたい選手の周りに報道陣が集まり、選手の準備ができるまでその場でひたすら待つという光景が繰り広げられる。選手は先にシャワーを浴びてから着替えて囲み取材を受けることが多く、ロッカーの前で着替えている選手を、報道陣がやや距離を取ってずらっと取り囲み、着替えが終わるのをじっと待つことになる。
現役最後の頃の野茂はそんなとき、報道陣に背を向けて着替えを終えると、ぱっと振り返って「さあどうぞ」という雰囲気を醸し出した。現役晩年の頃は登板しても散々な結果だったことも多く、話を聞くのが逆に心苦しいと感じることもあった。だが野茂は、どんな場合であっても同じように取材を受けた。ラストチャンスともいえるメジャー復帰に向けて、張り詰めた日々が続く中でも対応してくれた。あのメディア嫌いの選手が、である。それは驚きであり、感慨深くもあった。
そうした変化を見るにつけてこうも思った。野茂英雄はいま、理想とする“プロフェッショナルとしてのあり方”を突き詰めようとしているのではないか、と。
「マウンドで投げるのが楽しい」
ロイヤルズのキャンプ中によくそう言っていた。
まだオープン戦の段階とはいえメジャーの打者を相手に投げるのは3年ぶりだ。1球ごとに感覚を呼び起こしながら投げていた印象だった。結局このキャンプの終盤に足を痛めて開幕には間に合わなかったが、開幕から5日後の4月5日にメジャー合流が決定。思いがけない電撃昇格だった。
〈つづく〉
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