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「WBCの盛り上がり? まったくない」米国記者が悲しむ現地の“リアルなWBC熱”…侍ジャパンの“練習配信”なんて「アメリカでは考えられない」
posted2023/03/07 17:08
text by
阿部太郎Taro Abe
photograph by
Getty Images
球春到来とばかりにMLBのキャンプが始まった2日後、通算197勝の大物左腕クレイトン・カーショー投手(ドジャース)が、WBCアメリカ代表を辞退することが決まった。出場を心待ちにしていた左腕の辞退の理由は、怪我ではない。出場にあたって、保険会社が保険のカバーを認めなかったためだ。カーショーは「苛立つ。出たい選手がもっと出やすいようにすべきだ」と言葉を残した。
ロサンゼルス・タイムスの名物記者で、日本野球にも精通しているコラムニストのディラン・ヘルナンデス氏は、同紙で「書類の手続きでスター選手が出場を禁じられるなら、WBCは(サッカーの)ワールドカップになれない」というタイトルのコラムを掲載した。カーショーに直接取材し、WBCについて考察するヘルナンデス氏に、アメリカ本土のWBCに対する温度感や、今回のアメリカ代表に有力選手が集まった背景、保険の問題などを聞いた。
米国記者の嘆き「大会に値段をつけてしまった」
――まず率直に、WBCに対するアメリカのファンの熱は?
自分が感じるかぎり、まったくないように思う。アメリカでは「プロのアメフト(NFL)はこの国にしかない。NBA(バスケ)は世界一のリーグ」と考えられている。野球においても、アメリカの人は「ワールドシリーズに勝つチームこそが世界一」だと信じ込んでいる。要するに、トップの大会でないと気にしない、ということだろう。
――MLBのトップ選手が、保険の問題やチームの判断で出られない状況について。
保険の問題でカーショーが出られないという話があったように、出たい選手ですら、みんながみんな出ているわけではない。ワールドカップやオリンピックは、やはりお金より価値がある、お金で買えない大会だと思われている。しかしWBCは、カーショーの保険の問題で(大会に)値段をつけてしまった。この大会の価値は、多くてもカーショーの今年の給料の2000万ドル(約27億円)だ。もしカーショーが大会に出て怪我して1年出られなかったら、ドジャースが27億円を損する。そこまでの価値はないというのが、こちらの姿勢なんだ。
これはMLB自身が決めたもの。ジェイコブ・デグロム(レンジャーズ)についても、もし彼がWBCへの出場を希望したら、保険の問題になっていたと聞いた。MLBがWBCに出る選手の保険に「一人ではなく全員をカバーするために、いくら出せばいい」という値段をつけた。後になって「この選手とこの選手はダメだ」と保険会社が言ってきたようだ。