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「その瞬間、ぼくは切れてしまった」鹿島アントラーズの主将がサポーターの“空き缶”を投げ返した日…“ジーコの精神”はいかに受け継がれたか? 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byKazuaki Nishiyama

posted2023/05/16 11:01

「その瞬間、ぼくは切れてしまった」鹿島アントラーズの主将がサポーターの“空き缶”を投げ返した日…“ジーコの精神”はいかに受け継がれたか?<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

1993年の本田泰人。鹿島アントラーズのキャプテンとして、ジーコの精神を継承した

負けたときほど、サポーターに歩み寄って挨拶する

 本田が自らに課していたルールがある。負けたときほど、サポーターに歩み寄って挨拶するということだ。

「それとなくショートカットして帰ろうとする若手を、ぼくは無理やり引っ張っていきました。なぜなら、一緒に戦ったサポーターの悔しい気持ちがわかるから」

 ゴール裏に並んだイレブンに、容赦ない罵声が降り注ぐ。ときには「おまえがプレーしてみろよ。俺がここから応援してやるから」と捨て台詞を吐きたくなるが、そんな思いをグッとこらえて耐え忍ぶのだ。

サポーターから投げられた空き缶

 だが、堪忍袋の緒が切れたときがあった。'04年10月23日、ホームでの浦和戦である。

「ウチのサポーターは浦和への対抗心が強いので、結果が出ない中でも浦和にだけは勝てと言われていました。その試合に負けたんです。例によって小笠原なんかを引っ張ってゴール裏に行くと、いろんなものが飛んできて、空き缶がだれかに当たった。その瞬間、ぼくは切れてしまって……」

 本田が怒りに任せて空き缶を投げ返すと、サポーターがピッチになだれ込み、本田を袋叩きにした。

 口先のキャプテンシーではない。本田は身体を張って家族を守ろうとした。殴られ損? いや、そんなことはないはずだ。

 気骨ある二代目は満足げに語るのだ。

「あの寡黙な小笠原が、いつからか負けると若手を引っ張ってサポーターの元に行くようになりました。そんな姿を見るたび、思いは伝わっていると実感するんです」

 本田泰人と仲間たちがつないできたジーコの精神。今季も《SPIRIT OF ZICO》の横断幕がカシマスタジアムにたなびく。

ジーコZico

生年月日 1953年3月3日(65歳)
国籍 ブラジル ポジション MF
所属クラブ
1971-1983 フラメンゴ(ブラジル)
1983-1985 ウディネーゼ(イタリア)
1985-1989 フラメンゴ
1991-1994 住友金属/鹿島アントラーズ
2018-2021 鹿島アントラーズ・テクニカルディレクター
Jリーグ実績
J1 23試合14得点
代表歴 ブラジル代表 71試合48得点

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