実は球団代表で、三原の早稲田の先輩でもある市岡忠男は、シベリアにいる水原茂に采配を委ねたいと思っていたが、主力選手たちの熱意にほだされて三原の監督就任が決まる。この球団幹部と選手、三原脩自身の認識の違いが、後年、深刻な対立を生むことになる。

　三原はこのシーズン途中から「助監督、技術顧問」として球界に復帰したが、すぐに監督になる。1947年は5位、翌48年は南海に次ぐ2位に終わる。そしてこのオフに巨人は球史に残る「別所引き抜き事件」を起こすのだ。

巨人監督時代の三原　©Kyodo News

　当時、南海ホークスの絶対的エースだった別所昭（のち毅彦）が待遇に不満を持ち、移籍を考えていることを知った巨人は、別所に好条件を提示し仮契約を結ぶ。南海は日本野球連盟に提訴したものの、最終的に別所は2カ月出場停止のペナルティを科された上で巨人への移籍が決まる。

　この大事件の筋書きを書いたのは誰なのか？

　諸説あるが、別所を引き抜かれた南海の鶴岡一人監督は手記で「（別所は）とにかく昭和23（1948）年のシーズン中からおかしかった。三原さんの手が動いていたのだから、おかしいのも当然だが」と書いている。三原本人は「暗躍したことはない」と書いているが、一般的には三原脩が球団上層部をたきつけたのだと言われている。この年、阪急から巨人に復帰した青田昇は三原が「たとえ別所が1勝も挙げなくても（昨年南海で挙げた）26勝が消えるだけで、うちが優勝できるのだから」と語っていたと証言している。

　翌1949年4月14日、後楽園球場の巨人－南海戦で、巨人監督の三原脩は守備妨害の判定を巡って南海の捕手筒井敬三を殴打する「三原ポカリ事件」を起こしている。この試合の島秀之助球審は「三原監督は抗議のため出てきたと思ったが、やにわに筒井君を殴った。監督たるもののとる態度ではない」と怒り、三原監督は「出場停止処分」を受けた。このあたりにも当時の三原の苛立ちが見て取れる。

「反三原」の中で水原茂が帰還すると…

　三原は7月21日に処分が解かれ、現場に復帰。最終的に巨人は、戦後初の優勝を飾る。

　監督・三原脩は、主力選手とそれ以外の選手の待遇にあからさまに差をつけた。いわゆる「スターシステム」で、それまでとかく「なあなあの関係」になりがちだった選手たちにプロ意識を植え付けた。しかし一方でそうした差別待遇は選手の反感を買った。

　さらに同月、シベリアに抑留されていた水原茂が帰還する。水原は帰還したその足で後楽園球場に駆け付けファンに「水原、ただいま帰って参りました」と感動の挨拶をする。

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