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プロ野球亭日乗BACK NUMBER
大谷翔平が9回のマウンドへ…「大丈夫かな?」WBC村田善則コーチが明かす「一度も受けたことがない」中村悠平との決勝バッテリー秘話
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/21 11:02
即席バッテリーでも快投を引き出した中村悠平(左)と大谷翔平
しかももう1つ難問だったのは、ブルペンで受けていても、実際のマウンドとは別人のボールになるということだ。
「彼はブルペンでは全力で投げないです。だから試合で受けていた甲斐ですら、本当にそこには受けてみないと分からない、と。そんな色んな難しい条件が重なって、中村には大変難しい状況になってしまったんですね」
村田コーチは振り返った。
マウンド上で大谷が中村にかけた言葉
3対2で日本が1点リードして8回の攻撃が終わると、左翼後方のブルペンから大谷がゆっくりマウンドに向かって歩き出した。マウンドに上がる直前に、ボールをポンと投げて渡したのは中村だった。
「甘めでいいんでどっしり構えてください」
大谷が中村にかけた言葉だ。
もちろん大谷も初めて組むことは分かっているからこそ、この言葉が出てきた訳である。
伝説となったマイク・トラウト外野手との最終対決。要望通りに少しだけ体をコーナーに寄せながらも、大きくどっしりと構えて中村は1球、1球をしっかりリードしていった。そしてフルカウントから最後の87マイル(140km)のスイーパーに、トラウトのバットが空を切った。その球をガッチリ受け止めて歓喜の瞬間はやってきた。
「本当に中村には申し訳なかったなと思います」
村田コーチは改めて想像以上に大変な役割を、しかもあんな場面で中村に求めたことに謝罪の言葉を口にした。
「ただあのピッチャーを初見で、初めて受けて、あれだけリードできるんだから。悠平は凄かった。チームも助けられたし、僕自身も助けられたという思いです」
中村には技術がある。そして中村だけでなくこのチームの捕手陣のコミュニケーションの良さが、土壇場でも慌てずに情報交換を的確にできたことに表れた。
「大丈夫です」
そう言い切った村田コーチの言葉の背景には、そんなチームワークへの確証があったのである。