杉山の名声はサッカー界だけにとどまらなかった。現役時代の太ももは腰回りとほぼ同じ68センチもあり、「一流の競輪選手になれる」と競輪界から誘われたという。

「清水にとんでもなく足の速い選手がいる」

「人と同じことをしていては勝てない」という信念は、サッカーの技術向上にもつながった。中学1年生の時は球拾いばかり。「このままだと上達しない」と、ボールを蹴るために誰よりも早く練習に来た。誰もいないグラウンドで壁に目印を決めてキックのトレーニングを行い、全体練習が終わった後も、一人残って同じメニューを繰り返した。その結果、利き足ではない左でも遜色ないキックができるようになっていた。

　こうした努力が実り、杉山の名が全国に轟いたのは清水東高校時代だった。「清水にとんでもなく足の速い選手がいる」――誰もがそう口にしたという1958年の富山国体。雨が降りしきる中で行われた決勝戦で、杉山は輝きを放つ。泥んこのグラウンドでもバランスを崩すことなく、スピードあるドリブル突破で相手DFを切り裂いた。清水東は延長戦で山陽（広島）を下して初優勝を飾り、杉山は翌年の第1回アジアユース選手権の代表メンバーに選出された。

清水東高校時代の杉山隆一（本人提供）

　この時、サッカー人生が一気に開ける出来事があった。サッカーを始めて以来、杉山のポジションはインナー、今でいう「攻撃的MF」だった。しかし小さな偶然が運命を変える。杉山のスピードを生かそうと考えていたユース代表の監督・高橋英辰は、ある選手が学校の補習で合流が遅れたため、右利きの杉山を左ウイングに配置したのだ。これが後にウイングとして覚醒する布石になるとは、その時はまだ誰も知る由はなかった。

高校に4年間通い、大学入学前には浪人も

　杉山の人生は決して順風満帆ではなく、波乱に満ちていた。清水東で国体初優勝を飾った当時、杉山は定時制に在学していたが、周囲から「定時制は昼間働いているから社会人。高校生として出場するのはおかしい」と指摘され、高校選手権の出場資格がなくなった。このため急きょ、全日制の編入試験を受け合格したものの単位の問題から2年生を2度やるはめになり、高校に4年間通った。

【次ページ】　豪快な飲みっぷりでツケの総額は200万円に