- #1
- #2
オリンピックPRESSBACK NUMBER
引退直後に歯科大学を受験…異色のハードラー・金井大旺27歳が語る“2度目の学生生活”「陸上特有の“刺激”を埋められるものを探している」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byWataru Sato
posted2023/04/08 17:01
現在は歯科大生の金井。110mハードルで日本記録も有していた名ハードラーが引退後の学生生活について教えてくれた
「空きコマ」のない“忙しすぎる学生生活”
自身にとって法政大学に次ぐ2度目の学生生活。だがその中身はまるで異なる。シラバスを見ると、午前9時から午後5時過ぎまで病理学や解剖学、歯学英語……といった授業がびっしりと詰まり、いわゆる「空きコマ」や「全休」は存在しない。
“忙しすぎる学生生活”の実態について、金井は苦笑いしながらこう明かしてくれた。
「法政大学の時とは全く違う雰囲気とカリキュラムで驚きましたね。教室の席は出席番号で固定されていて、毎日クラスメイトと顔を合わせるので高校時代に戻ったような感覚でした。実習は週3回くらいあるので、レポートや考察を書き上げるのに3時間以上かかる時もありました。現役時代は質を上げるために一本一本に短期集中してトレーニングを重ねていたので、今の長時間の集中にはまだ慣れていない感じがあります」
勉強生活と競技生活のギャップは?
前期は新型コロナの影響でオンライン講義だったが、後期から対面での授業が再開された。教室に元五輪代表がいたらさぞかし驚かれそうだが、好奇の目で見られることはあまりないという。
「僕が入学することがニュースの記事や噂で知られていたので直接聞かれることはなくて。医療系大学なので編入や多浪の子もいて年齢の近い同級生も多いので、割と溶け込んでいるかなと思っています」
2018年に14年ぶりに日本記録を樹立するなど、金井はスプリントハードルの歴史を動かしてきた。世界を舞台に戦い続けた競技人生から一転、ひたすら机に向かう“普通”の生活へのギャップは感じなかったのだろうか。
「生活のギャップというより、現役生活と勉強との違いは感じていますね。陸上競技は特性上、このトレーニングを行えば必ず結果が出るというものはないので、常に試行錯誤を重ねても報われないことも多かったんです。努力に対してリターンが返ってこないことがキツいなと思うこともありました。一方で、歯科大学での勉強の場合は、国家試験に向けて決められたルートで覚えることを確実にクリアしていけば成果としてあらわれる。両者とも目標に向けて継続して努力を重ねていくという点では同じだと思います」