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「じつはヌートバーは“全然打てないマイナーリーガー”だった」米国記者もビックリ“異例のスピード出世”…ヌートバー25歳はなぜ覚醒したのか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2023/03/12 11:04
WBC中国戦の3回、猛ダッシュからのスライディング。スーパーキャッチに東京ドームが沸いた
2022年の成績は打率こそ.228だったが、出塁率が.340と高かった。これは三振が71個に対して四球は51個という選球眼の良さ、打席での「規律」が高く評価されている。
もともとヌートバーは選球眼が評価されていたが、ここにドライブラインで改良したパワーがミックスされたのだ。
さらに、このスピード出世の背景には、「彼の勤勉さ(work-ethic)、そしてゲームに対する情熱が一役買っている」という。
これこそが、カージナルスという組織が大切にしてきた価値観だ。
かつて、通算3630安打(歴代4位)を放ったスタン・ミュージアル(1941年~1963年)や、ヤンキースの監督を務めたジョー・トーレ、盗塁王ルー・ブロック、「オズの魔法使い」と呼ばれたオジー・スミスらを生んできたが、堅実で、インテリジェンスの高いプレーを見せるのがカージナルスの選手たちの伝統だ。
基本的に守備・走塁を強調する割合が他球団に比べて高く、ヌートバーはこのチームの正統派にふさわしいプレースタイルを持っている。
WBCのわずか2試合だけでも好捕が2つあり、しかも韓国戦の7回裏にはライト前ヒットを放つと、送球の間に積極的な走塁で二塁を陥れた。
ファインプレーのオンパレードで、まさに“Cardinals Way”を体現している選手だと感心してしまった。
「そのルーツだけで語るのはあまりに惜しい選手だ」
こうなると、レギュラーシーズンでの活躍も楽しみになってくる。2023年は正外野手として初めてフルで戦う重要なシーズンで、アメリカメディアの予想を見ると、レフトかライトを守り、打順は6番に入るのではないか、とされている。
今季、さらに成績を上積みすれば、中期的にはカージナルスの主力となることは間違いないだろう。
WBCについては、準々決勝、そしてアメリカでのラウンドに進めば、ヌートバーの存在はますます大きなものになりそうだ。それにしても、たった2試合でファンのハートをつかんだアピール力には目を見張るものがある。
東京ドームでは彼が打席に立つたびに、
「Nooooooot!」
という地鳴りのような声援が飛び、ヌートバーはその期待に応える。
ヌートバーのことを、そのルーツだけで語るのはあまりに惜しい。
ドライブラインという最先端の施設で適切にトレーニングを行い、しかもカージナルスの折り目正しい野球を表現できる貴重な選手なのだ。
ヌートバーがこれからどんな成長を遂げるのか、本当に楽しみにしている。
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