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「スタメンから外せば日本は勝てる」の批判→覚醒…岩村明憲が明かすWBC韓国戦“あのイチロー決勝打”の伏線「全てが報われました」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNumber Web
posted2023/03/07 17:00
第2回大会の1次ラウンド、波に乗り切れないイチローとともに「外せば日本は勝てる」の声も挙がって……岩村明憲が舞台裏を明かす
あの決勝ヒットの“伏線”
「打球が強すぎて内川(聖一)がホームに還ってこられませんでしたけど、だからこそ最高の場面でイチローさんに回ってきたわけで」
1アウト一、三塁から代打の川崎宗則がショートフライに倒れて2アウト。ここまで43打数11安打、2割5分6厘と、相手に与える脅威が薄れかけていたイチローが打席に立った時、岩村は激戦の終結を予見した。
イチローへの初球が外角に外れる。ここで岩村は「敬遠はない」と確信する。
「緒方さん、行っていいすか?」
一塁コーチャーの緒方耕一に許可を求める。
「行ける?」「多分、余裕だと思います」。ふたりは短く状況を擦り合わせた。
瞬時にあらゆる情報を処理した上での、岩村の決断だった。
まず、相手ファーストがベースから離れているため牽制球は来ない。仮に自重して盗塁せず、イチローが内野ゴロを打てば二塁で自分が封殺になる。でも、二塁に進んでいれば内野安打になる可能性がある。フォアボールで満塁になったとしても、次を打つ中島なら必ずランナーを返してくれる――これだけの根拠が岩村にはあったのだ。そしてイチローへの2球目、岩村はスタートを切った。2アウト二、三塁。お膳立ては、できた。
1ボール1ストライクから、イチローは4球連続ファウルと積極的にバットを出した。打席を正面で捉えられるセカンドランナーの岩村は、さらに確信を深めていた。
「イチローさんのタイミングが合ってきた。これは打ってくれるな」
2ボール2ストライク。イム・チャンヨンのボールがストライクゾーンならスタートを切ろうと準備していた岩村が、イチローが打ったと同時に「三塁ランナーの内川を抜くつもり」でギアをトップに入れ疾走し、優勝を決定づける5点目のホームを踏んだ。
連覇の日本に訪れた、歓喜の抱擁。
勝つことですべてが報われた
ドジャー・スタジアムに紙吹雪が舞う。煌くティファニーのトロフィー。監督の原辰徳が掲げ、無数のフラッシュのなかイチローが天にかざす。万雷の拍手のなか、城島健司から岩村の手に渡ると、初戦からほぼフル出場しグラウンドで優勝を迎えた男が、今度は誇らしく勝者の証を夜空に突き上げた。
「この大会も優勝するまで紆余曲折ありましたけど、勝つことで全てが報われました」
忘れられない味、シャンパンファイト。喜びの一つひとつが泡に包み込まれる。
無礼講とばかりに、イチローがノリノリで監督の口癖を目の前で披露してみせる。
「お前さんは~」
英雄たちのWBC。大爆笑で幕を閉じた。
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