それは、セーフティバントだ。

©Naoya Sanuki

　レイズで1番バッターを任されるようになっていた岩村は、相手内野手に警戒されてもそれを決める術を身につけていた。バットを出すタイミングと角度、ボールを捉えるポイント。これらがスムーズにいけばセーフティバントの成功率が高いことを知っていたし、通常のバッティングに置き換えてもボールに対してしっかり反応できている証左となる。

　ジャイアンツとの試合。岩村は完璧なセーフティバントを決めた。

「ガンさん、アメリカの水が合ってますね！」

　チームの得点機を演出してベンチに戻ると、岩村が「兄弟分」と表現するほど懇意にする中島裕之（現宏之）から言われ、再確認する。

「そうだ。バッティングの感覚はズレてない。俺のWBCは、このアメリカから始まるんだって思うようにしよう」

　水を得た岩村のバットがしなる。

「外せば日本は勝てる」の声→アメリカで覚醒

　2次ラウンド初戦となったキューバ戦。当時はまだ粗削りながら剛腕として注目されていた、アロルディス・チャップマンのストレートをレフト前に弾き返すなど2本のヒットを記録した。ここから準決勝まで16打数7安打、4割3分8厘と高打率を残し、「スタメンから外せば日本は勝てる」といった論客を黙らせた。

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　そんな岩村にとってハイライトとも言える1本――いや、パフォーマンスを挙げるとなると、あれしかない。韓国との決勝戦。3-3で迎えた延長10回である。

　岩村の頭はクリアだった。

　1アウト二塁。マウンドに立つ韓国の守護神、イム・チャンヨンとはこれまで2度対戦し2三振と抑えられていたが、岩村はすでに相手のピッチング傾向を把握済みだった。

　140キロ台後半のシンカー系のボールを投げる際は少し腕を下げ、150キロ台のストレートは腕の位置が高くなる。ただ、どちらからもスライダーを投げてくるため、はっきりした癖だと判断するのは早計だ。センター方向のバッティングを意識していれば、少しバットが出遅れても逆方向には打球が飛ぶ――岩村は柔軟に考え打席を迎えた。そして1ボール、1ストライクからの3球目。内角低め150キロのストレートをレフトへ痛烈に打ち返した。

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