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「殺されても行く」アントニオ猪木と北朝鮮を訪問、家族は「遺言書を書いて」…猪木に魅せられたパティシエの夢物語と“傑作チーズケーキ”
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/02/20 11:02
アントニオ猪木が愛した『デリチュース』のチーズケーキ。その断面図は美しく、口にすると思わず顔がほころぶ逸品だ
フランスから空輸されたルゼール社のブリー・ド・モーを、4週間ほど湿度を管理して熟成する。値段は他社のチーズに比べて、はるかに高価だという。しかしどれほど高くても、長岡さんはルゼール社のチーズにこだわった。そうして、『デリチュース』の看板商品であるチーズケーキが完成した。
「70歳になってもお菓子作りは続けたい」
チーズケーキは200度のオーブンで約1時間かけて焼かれる。工房が香る。焼き上がったケーキは冷やされた後、アプリコットのジャムが丁寧に塗られていく。
こだわりのチーズケーキは評判の逸品になった。「60歳になったらゆっくりしよう」と考えていた長岡さんは、『デリチュース』をジェイアール西日本フードサービスネットに譲渡した。
「一代で終わるつもりでしたから、ブランド力を高めて、いいときに渡そうと思っていました。全く違う業界と、業務提携したかったんです」
現在の肩書は相談役だが、それでも毎日のように店に出ている。
「今年は新入社員が7人調理に入ってくるので、基本を教えてあげようと思っています。そのうち、また小さな店をやりたくなるかもしれませんね。結局、根っからの菓子職人なんです。家族とゆっくりしたいけれど、仕事をしていると楽しい。70歳になってもお菓子作りは続けるでしょうね。もう一度原点にかえって、手作りの小さい店で、1日、10個なら10個だけ作って、食べてもらおうかな……」
食べた人の笑顔が、長岡さんの喜びだという。その記憶のなかには、もちろん猪木の笑顔も刻み込まれている。
<#5へ続く>
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