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「殺されても行く」アントニオ猪木と北朝鮮を訪問、家族は「遺言書を書いて」…猪木に魅せられたパティシエの夢物語と“傑作チーズケーキ” 

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原悦生

原悦生Essei Hara

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posted2023/02/20 11:02

「殺されても行く」アントニオ猪木と北朝鮮を訪問、家族は「遺言書を書いて」…猪木に魅せられたパティシエの夢物語と“傑作チーズケーキ”<Number Web> photograph by Essei Hara

アントニオ猪木が愛した『デリチュース』のチーズケーキ。その断面図は美しく、口にすると思わず顔がほころぶ逸品だ

猪木と訪朝、家族は「遺言書を書いてから行って」

 それからも、猪木は大阪に来るたびに長岡さんに電話をくれたという。

「大阪では猪木さんと50回以上は食事をしました。『デリチュース』にも10回以上来てくれました。東京に帰る前に『お茶飲んでから帰る』と言って寄ってくれたこともあります。やがて猪木さんが大阪に来たら、ボクが必ず迎えに行くようになりました。大きい車を持っていたので、新大阪駅や伊丹空港に迎えに行きました。IGFの試合があるときは東京にも行きましたし、ケーキや卵も届けました。何年かしてからは、チーズも送るようになりました」

 猪木はチーズも大好きだから、最高級のものが届いてうれしかっただろう。

「猪木さんに頼まれて、多くの人にうちのチーズケーキを送りましたね。森喜朗さんや、小泉純一郎さんにも。翌日に着くように送るんです。うちのチーズケーキは、作った翌日が一番おいしいと思っています。味は毎日変わっていくので、1人でホールを食べるなら、1週間違う味を楽しめます」

 猪木はよくアップルパイの話をしたので、長岡さんに頼んだかどうか聞いてみた。

「猪木さんのアップルパイの話はアメリカのでしょう。アメリカのリンゴと日本のリンゴは違うんです。日本のリンゴは甘くて実が柔らかく、崩れやすい。アメリカのリンゴは酸味があって固いから、砂糖を入れて加工するとおいしくなります」

 猪木は「作ってくれ」とは言わなかったようだ。

「北朝鮮にも2回行きました。ホテルで食事している時に、みなさんも行きますかって言われたんです。一度行ってみたいと思っていました。怖いイメージがあったのですが、猪木さんと一緒なら大丈夫だろうと。『本当に行きますか』と猪木さんに念を押されましたね。希望者は30人くらいいましたが、実際に一緒に行ったのは12、3人。直前に北朝鮮がテポドンを打ち上げてアメリカがイージス艦を配置して、迎撃するとかいう話になって、家族や友達から大反対されました。それでも、『帰ってこられなくても、殺されても行く』と決めていました。家族には『遺言書を書いてから行ってくれ』と……」

【次ページ】 猪木が愛したチーズケーキはいかにして生まれたか

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