酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「やす、6割くらい?」奥川恭伸が復活へ一歩、「(川端)慎吾はやらんのー!」笑顔でムード◎なワケ〈ヤクルト二軍キャンプ観察〉
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2023/02/04 11:01
復活を目指す奥川恭伸。ブルペンでも充実したピッチングを見せていた
2021年の後半、奥川は当時「11」だったが、すでに「18」にふさわしい活躍だった。立ち上がりで少々走者を出してもしり上がりに調子を上げる。球数も少なく、CSではマダックス(9回完封して100球未満)を達成したが、昨年はコロナ感染に続いて右ひじの不調に苦しみ、わずか1試合の登板に終わった。
奥川が不在の中で、ヤクルトが連覇したのは驚きではある。奥川は一部にささやかれたトミー・ジョン手術を受けることなく、二軍キャンプ地に姿を現したのだ。
ゆっくりとしたフォームから、かなり強いボールを投げ込んだ。球速は次第に上がり、周囲から「おおー」と声が上がる。
「やす、6割くらいか?」の声に笑顔
「やす、6割くらいか?」
コーチから声がかかる。奥川と言えば、あのさわやかな笑顔が印象的だが、再起を期したブルペンでも笑みを浮かべながら答えていた。球数はわからなかったが、全力投球も何球かあったように感じた。
投げ終わって、小山田貴雄ブルペン捕手と言葉を交わしている。小山田はかつて四国ILの高知でプレーした捕手、筆者には懐かしい顔だが、2010年からヤクルトのブルペン捕手として投手陣を見ている。奥川にとっても頼もしい存在なのだろう。
高校時代から世代屈指の投手として知られた奥川だ。本当ならば、同世代の佐々木朗希や宮城大弥らとともに侍ジャパンのユニフォームを着ていてもおかしくない投手ではある。しかし焦らずに再起を期してほしい。
「おら、慎吾! 体、重たそうやのー!」
メイングラウンドでは内外野のノックが始まっている。
城石憲之コーチがノックバットを振る。西浦、荒木貴裕など準レギュラークラスがいい動きを見せている。太田賢吾はスナップを利かして鋭い送球を見せている。この選手はバッテリーを除くすべてのポジションを守るが、試合前のノックで際立った動きを見せる。
ノッカーが一軍から二軍に転任した宮出隆自コーチに代わった。
宮出コーチは、ファーストミットを持って守る川端慎吾をいじり倒す。
「おら、慎吾! 体、重たそうやのー!」
ジャッグルしかかって体勢を立て直すと、「さすがベテラン、慎吾はやらん(失敗しない)のー!」と、周囲は爆笑に包まれていた。