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“甲府20年目で初タイトル”山本英臣に聞く天皇杯決勝のPK戦秘話「ハンドはするしコイントスは負けるし、逆に笑えてきたんです」
text by
澤田将太Shota Sawada
photograph by2022VFK
posted2022/12/27 11:07
天皇杯決勝のPK戦に臨むヴァンフォーレ甲府の山本英臣。「決めれば優勝」という状況のなか、どんな心境で5人目のキッカーを務めたのだろうか
PK戦前の心境「もう俺、最悪だなって(笑)」
1-1のまま、勝負はPK戦へともつれ込む。山本は5人目のキッカーに選ばれた。ハンドの精神的ダメージが残る山本を落ち着かせたのは、意外な出来事だった。
「キャプテンマークを巻いていたので、僕がコイントスをしたんですよ。先攻・後攻の選択権も、ゴールの選択権も、どっちも負けた。ハンドはするしコイントスは負けるし、『もう俺、最悪だな』って逆に笑えてきたんです。言い訳みたいになっちゃうんですけど、コイントスのやり方がちょっと変だったんですよ! コインを上に飛ばしてキャッチして、レフェリーが開く前になぜか手をひっくり返したんです。『あれ? 普通に開いたら俺の勝ちじゃなかった?』ってなるじゃないですか(笑)。それで先攻を取られて、次のゴール選びのコイントスでは2回ひっくり返して僕の負け。『いやいやいや、なんだこれ』って(笑)。心のなかでツッコんでる間にリラックスできました」
PK戦にも、いくつものドラマが用意されていた。同点ゴールでチームを救った広島の4人目・川村は河田のビッグセーブに阻まれ、ほんの十数分前にPKを止められた5人目の満田はきっちり右隅に蹴り込んだ。そしてついに、山本の番が回ってくる。
決めれば優勝という最大級の重圧がかかる場面で、山本は「一番得意なコース」と語る左上隅にハーフスピードのシュートを打ち込んだ。運任せで適当に蹴るのではなく、やぶれかぶれでただ強い球を蹴るのでもない。少し前まで茫然自失となっていたとは思えない、きわめて難易度の高い選択だった。
「自分でも驚くほど落ち着いていて、2、3パターンのキックを考えていました。4人目までの傾向を見ると、大迫(敬介)選手は少し早く動き出すタイプだな、と。ラストはより早く動くと予想できたので、タイミングを外して打つ選択肢が浮かびました。でも助走を2、3歩と進んだあたりで、直感的に右に飛ぶのがわかったんです。ただ、もしフェイントだったら嫌なので、単純に左に蹴るわけにもいかない。じゃあいっそのこと、読まれても届かない左上隅にしようと。大迫選手が4人目まで低めに飛んでいた、というのもありました。決めた後のことは……もうなにも覚えてないです」