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“甲府20年目で初タイトル”山本英臣に聞く天皇杯決勝のPK戦秘話「ハンドはするしコイントスは負けるし、逆に笑えてきたんです」
posted2022/12/27 11:07
text by
澤田将太Shota Sawada
photograph by
2022VFK
10月16日に日産スタジアムで行われた第102回天皇杯決勝。1点をリードしたまま迎えた84分、ヴァンフォーレ甲府はサンフレッチェ広島のMF川村拓夢のゴールで追いつかれた。劣勢に立たされた甲府は、延長後半にクラブ在籍20年、42歳の山本英臣を投入する。吉田達磨監督(当時)の狙いは、ゲームを落ち着かせることだった。
しかしその約3分後、山本は「たぶん、キャリアを通じて初めて」だというハンドによるPKを与えてしまう。
「頭が真っ白でなにも聞こえないんですよ。少しずつ聞こえるようになったと思ったら、今度は『なんてことをしてしまったんだ』とネガティブな感情が溢れ出してくる。呆然としながらレフェリーに『ちょっとVARだけでも見てくれない?』って言ったんですけど、無駄なのはわかりきっていました。だって、完全にハンドでしたから……。無意味に食い下がって申し訳なかったです」
守護神のスーパーセーブに「頭の整理が…」
広島のキッカーは、7月のE-1選手権で日本代表に選出された伸び盛りの23歳・満田誠だった。しかし、ゴール左隅を狙ったグラウンダーのシュートをGK河田晃兵がスーパーセーブ。共に甲府の守備陣を支えてきた35歳のベテランが、山本のミスを帳消しにしたのだ。
河田は試合後のインタビューで「(山本のためにも)このまま終わらせるわけにはいかなかった」と答えている。守護神の気迫あふれるプレーに、山本はなにを感じたのだろうか。
「PKなので入って当たり前だと思っていました。実際、満田選手の蹴ったコースもよかった。止めたときは『ありがとう』という気持ちより、単純に『河田すげーな!』と(笑)。頭の整理が追いついてなかったので、止めた後にお礼も言えなかった。彼とは頻繁にメシに行くような仲ではないけれど、同じように覚悟を決めて甲府のためにプレーすることを選んだ同士、という感覚はあります。ちょっと不思議な間柄かもしれません。
僕自身はPKの後も全然アグレッシブにプレーできませんでした。スペースを潰す動きだけをしようと、へんに丁寧にやりすぎてしまった。天皇杯の決勝は他の選手に連れてきてもらった舞台。だからなおさら、しんどかったです」