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天皇杯決勝でPKを献上し「頭が真っ白に…」“甲府のレジェンド”山本英臣42歳が味わった絶望感「もうこれでサッカーをやめるかも、と」
posted2022/12/27 11:06
text by
澤田将太Shota Sawada
photograph by
Number Web
やってしまった。まさか、このタイミングで――。PKを告げる笛が鳴った瞬間、クラブ在籍20年目のレジェンドは崩れ落ちて膝をついた。
10月16日、J2のヴァンフォーレ甲府が4つのJ1クラブを撃破し、たどり着いた天皇杯決勝。山本英臣は1-1の同点で迎えた延長後半から途中出場を果たすも、そのわずか3分後にペナルティエリア内でハンドを取られてしまう。念願の初タイトルを目前にした大ベテランにとって、あまりにも残酷なホイッスルだった。
「頭が真っ白になるって、こういうことなんだなと……。ハンドの瞬間からしばらく、耳が聞こえなくなりましたから。正直もう、生きた心地がしなかったですね」
「オミさん」が甲府でプレーを続ける理由
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山本に話を聞いたのは、甲府駅近くの小さなクラブ事務所だ。慌ただしくチラシを折っていたボランティアスタッフの女性たちが、「オミさん、お疲れさま。今日は取材?」と慣れ親しんだ様子で山本と挨拶を交わす。並み居るJ1の強豪を撃破して天皇杯を制したのは、このアットホームな地方クラブだった。
「街とクラブの関係はすごく近いですよ。僕たち選手のことを、子供や孫のように見守ってくれている感覚があります。試合中に攻められていると『きゃ~!』って悲鳴が聞こえてきて、なんだか小学生の試合を見ている保護者みたいだなって(笑)。甲府市内のお店で食事をしていたら、いつの間にかお会計が済んでいたこともあります。でも、シーズンシートを買うほど熱狂的なサポーターのご近所さんでも、普段はそんな雰囲気を全く出さないんです。家族で外を歩いているときに話しかけられたこともほとんどないですし、街の皆さんが僕たちのプライベートを尊重してくれているな、と感じますね」
ひとりの選手が20年も同じクラブでプレーする例は、国内外を見渡しても極めて限定的だと言っていい。しかも山本の場合、甲府の象徴的存在でありながら“生え抜き”ではないのだ。ジュニアユースからプロ4年目までは、地元のジェフ市原で過ごした。そんな彼が、ブルーとワインレッドのユニフォームにこだわり続ける理由はどこにあるのだろうか。