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栗山英樹監督が立てていた「WBCで世界一」の“フラグ” とは? 大谷、ダルビッシュ…史上最強のスター軍団を束ねる指揮官が描く「物語」
text by
木下大輔(日刊スポーツ)Daisuke Kinoshita
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/12/25 06:00
サッカー日本代表の森保監督に続き、同じ人情派の栗山監督が来春、日本中を熱くする?
とてもピュアな人間性で感受性も豊かだ。北海道・栗山町にある「栗の樹ファーム」では、自然とともに生きている。名作映画「フィールド・オブ・ドリームス」をモチーフにつくった野球場を核とした生活拠点では、キタキツネやリスなどの動物たちが“訪問”してくることも珍しくない。「癒やされる」と活力をもらいながら、自ら草刈り機を運転してグラウンドを整備したり、たくさんの植物も育てたりしている。
「自然は手を入れると、いつか反応するんだ。人も選手も一緒だと思う」
一事が万事。世のため、人のため、野球のために、学んできた普遍の価値観を監督業に投影してきた。
監督ラスト采配で見せた「ドラマ」
そんな栗山監督から何度も聞いた、最も印象的な言葉がある。
「野球は物語だ」
まさにこの言葉を感じさせる出来事があった。21年10月30日、日本ハムのシーズン最終戦となったロッテ戦。すでに退任を発表していた栗山監督にとってラスト采配の日はまさに、これまで監督として脚本、演出を手がけた10年間の“大河ドラマ”の最終回だった。
先発投手はプロ1年目の伊藤大海。2桁勝利に王手をかけてから6度も足踏みしていた。「ルーキー右腕に、10勝目を挙げて締めくくってほしい?」
試合前に報道陣から問われた栗山監督は言った。
「うん、本当だな。でも、これは野球の神様が決めるから。何が何でも、こっちは勝たせたいと思っていくけど、野球の神様が彼に『もっと頑張れ』っていうメッセージを送るのか。どっちにしても、いろんなメッセージが送られると思うので、この最終戦。それでいいだろ」
伊藤に先発を託した理由は、勝たせたいという単純な思いだけではなかった。むしろ、負けることも伊藤のためになるかもしれない、という思いがあった。勝利を求めることが大前提であることは間違いないが、目先だけを見据えた脚本は書かない。全てが未来の結末の伏線となるように、状況を整え、采配を振る。そして、結末だけは野球の神様に託して、全てを受け入れて常に前に進んでいく。
そしてこう続けた。
「仮に負けても、伊藤大海は絶対、これからちゃんと投げるから。それがちょっと不安だったら(この試合で)どうしても10勝させてやらなきゃって思うけど、彼は今後絶対に球界の中心のピッチャーになっていく。そういうふうに(人材を)作って次に渡すのが最後の仕事だから。大海に関しては信頼もしているし、これからチームを背負ってもらうっていうことも含めて、そういうふうにしているだけなので。物語、必要だろ」