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甲子園直前にボール直撃で大ケガ…あの“フェイスガード球児”が初めて明かす「大手術で変わった価値観」大阪桐蔭エースと涙の再会も
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/12/13 11:02
今夏の甲子園でベスト4進出を果たした聖光学院のメンバー・伊藤遥喜
「もう本当に、本当にもう……人に助けられているんだなって実感できるんですよね」
自らで導き出した価値観によって、伊藤はこれまで以上に一喜一憂しなくなった。
夏の福島大会でチームトップの5割5分6厘の高打率をマークしたが、一転、ベスト4まで勝ち進んだ甲子園では、野手のスタメンで最下位の1割7分6厘だった。それも、「今後を見据えて課題を出してもらえたと思ってます」と、現実を受け入れている。
国体で川原と“涙の再会”
だからあの再会も、きっとご褒美ではなく必然だった。場所は甲子園ではない。でもふたりは、確かに中学時代の約束を守った。
「あいつ、大人になってたっす。人との接し方とか中学とは全然変わってましたね」
栃木国体で大阪桐蔭の川原と久しぶりに会話した伊藤が、そう言って笑う。
「決勝でやりたいな」
ふたりは期待を膨らませ、それは実現した。
打席から18.44メートル先のマウンドで君臨する名門のエースは、中学の頃より格段に成長していた。試合では3度対峙し、ファーストゴロ、センターフライ、ピッチャーゴロのノーヒット。伊藤の完敗だった。
「中学時代のメンバーから、『嗣貴を打てよ!』って言われてたんで気合入ってたんですけど……。めっちゃ悔しい!」
試合終了の直前から、伊藤は泣いていた。
負けているからではない。自分を支えてくれた指導者や仲間たちと野球ができなくなる。それが辛く、悲しくて耐えられなかった。
聖光学院は1-5で大阪桐蔭に敗れた。試合後にホームベースで両チームが挨拶をすると、目の前に笑みを浮かべながら自分を見つめる川原がいて、また涙が溢れてきた。
「頑張れよ!」
伊藤は叫びながら、川原を抱きしめていた。
ふたりは青春の交差点で3年ぶりに出会い、またそれぞれの道へと進む。伊藤は関西国際大へ。無念のプロ指名漏れとなった川原は、社会人野球で研鑽を積むのだという。
「俺は4年後やからな。また会おう」
そして球友は、新たな約束を交わした。
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