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甲子園直前にボール直撃で大ケガ…あの“フェイスガード球児”が初めて明かす「大手術で変わった価値観」大阪桐蔭エースと涙の再会も
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/12/13 11:02
今夏の甲子園でベスト4進出を果たした聖光学院のメンバー・伊藤遥喜
ごめん、ごめん……。そんなことを呟きながら救急車に乗せられたことだけは、なんとなく覚えている。意識が朦朧としながら大変なことになったのだと悟り、伊藤は「ここで気を失ったらガチでヤバい」と気を張った。
病院に着き応急処置を終えると、医師からは想像していた通り大きな怪我だったと告げられた。だが、伊藤は「甲子園だけはどうしても出たい」と懇願した。
本人の強い意志によって、念願の大舞台への出場を医師から許可された。顔面とヘルメットにフェイスガードを装着してセンバツで2試合戦った伊藤は、「自分がこんな状況になっても試合に出させてくださった、高野連の方々やチームに感謝します」と頭を下げた。
センバツ後、すぐに手術を受けた。前頭骨や右眼底などが骨折しており、場所によっては「卵の殻を割ったような感じ」だったと、伊藤は言う。前頭部付近から皮膚をめくり、細かく骨を修復する大手術だった。
術後2日間、強烈な頭痛と嘔吐に襲われた。それは、生来の前向きな男が「こんな思いをするくらいなら、野球を辞めたい」とよぎるほどだったという。その苦痛から解放されたのが、熱のこもった数々の「言葉」だった。
「神様は乗り越えられる試練しか与えない」
センバツ前から監督の斎藤智也に勇気あるメッセージを授かっており、キャプテンの赤堀颯らチームメートからも似たような激励がLINEを通じて何回も贈られてきた。
「人に助けられてるんだなって」
そしてまた、苦しみの殻が破られる。
入院中の病室でスマートフォンを見ていると、サンボマスターが福島でのライブで『I love you & I need you ふくしま』を熱唱する動画に辿り着いた。この曲は東日本大震災の復興応援ソングで、11年前の被災を経験する監督の斎藤から、選手たちは難局を乗り越える人間の強さを教えられている。
それだけに、曲が染みわたる。伊藤は涙を流しながら、その意味を噛みしめていた。
「サンボマスターの歌に福島の人たちが感動して泣いてたんですね。なかには自分より辛い経験をしてる人だっているわけじゃないですか。『俺だけじゃないんだな』って」
そして伊藤は、つくづく「今」に感謝する。