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ドイツ代表W杯メンバー会見「唯一の日本人記者」潜入記「日本戦スタメンは?」に監督は「教えましょうか?」と冗談めかし…
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2022/11/15 17:00
W杯ドイツ代表メンバー発表に臨んだフリック監督
僕のことをチラッと見たフリック監督が「スタメンが知りたいなら教えましょうか?」と冗談っぽく話してきた。ドイツ人記者から少し笑い声が上がる。
別にギスギスした感じではないが、四面楚歌もいいところだ。だが、こちらも負けてはいられない。
「できるのでしたら、ぜひ」
「日本サッカーのことを高く評価している」
そう返すと、フリック監督は「その通りだね。いやいや……」と頷き、気を取り直して真面目な顔で話し始めた。
「日本サッカーのことを高く評価している。ドイツでプレーしている選手が多く、彼らはクオリティを持っている。非常にいいチームだ。初戦だし、我々にとっては大きな課題だ。ただ、試合まではまだ時間がある。いろいろなことが起こり得る」
丁寧な模範解答。続けて「前日会見になったら、もう少し詳細が話せるかもしれないね。それまでは、私にもわからないよ」と微笑んでいた。
記者会見後は、隣のメディアルームでちょっとした懇親の場が設けられた。その場にはフリック監督もいた。ドイツ人記者に囲まれているその輪に、僕も少し足を運んでみた。和やかな談笑だ。代表戦の思い出話などを楽しそうに話している。
しばらくすると「せっかく日本人の彼もいるのだから、日本代表について尋ねてみたらどうですか?」と、知り合いのドイツ人記者が話を振ってくれた。
みんなの視線がこちらに集まる。
フリック監督はスッと目を閉じて、そのあと何もなかったかのように柔らかい表情で周囲を見渡した。そして、何も話さずに次の話題へと移っていった。目を閉じる前の一瞬、その表情が引き締まったように感じた。
代表発表会見でも“W杯”は始まっている
戦いは始まっている。日本は初戦で対戦する相手なのだ。そんなメッセージだろうか。私たちが臨むのはワールドカップなのだ。
穏やかなやり取りの裏で、何をどこまで話すべきか、瞬時に判断したと思われる。
日本に負けるつもりは毛頭ない。だが、日本を侮ったり、甘く見たりするつもりもない。ワールドカップの初戦はどの国にとっても難しい。ましてや、前回大会グループリーグで敗退しているドイツにとって、今大会の初戦に懸ける意気込みは、日本人の僕らが思っているよりもずっと強い。万難を排して臨む意志の表れというのは、言い過ぎだろうか。