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「15失点炎上ピッチャー」も「エラーしがちな一軍ギリギリ野手」も高津臣吾監督なら大丈夫…“やっぱり”ヤクルトでブレイクした3人の若手
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySankei Shimbun
posted2022/11/04 11:04
日本シリーズ第7戦。2年連続の日本一を逃し、悔し涙でスタンドに手を振る高津臣吾監督(53歳)
しかし、キャンプが始まる時点では長岡は大きな期待をかけられていたわけではなかった。彼は“当落線上”の男だった。レギュラーではない。一軍と二軍の当落線だ。高津監督はこう振り返る。
「長岡に関しては、すべてが彼にチャンスを与えるような風向きだった、としか言いようがないんです。2月のキャンプ、スワローズは一軍は浦添、二軍は西都に分かれるんですが、ギリギリになって村上がコロナに感染したことが分かり、一軍の枠がひとつ空いたんです。誰にしようか……ということで、そこで名前が浮上したのが長岡でした。だから20番目の野手だったことは間違いない。キャンプでもショートのレギュラー候補の状態がなかなか上がってこないところで、長岡はオープン戦でそれなりに結果を出していました」
3月25日の開幕戦、相手となる阪神の先発投手は藤浪晋太郎だった。
「藤浪投手はサイド気味から投げてくるので、右打者よりも左打者の方がチャンスがあるかと思い、左の長岡を6番で起用しました。そうしたら4安打。そこから彼は自分の実力でレギュラーとしての地位を固めていきました」
長岡の評価ポイントは打撃だった。もっとも、守備には不安があった。私は開幕戦を現地で観戦していたが、スコアブックの2回裏、阪神の攻撃の箇所にはこんな走り書きがある。
「ほぼ、長岡のミス」
阪神が無死一塁で迎えた5番糸原の場面、長岡は強い打球を捕球することができず、打球はセンター前へと抜けた。ヒットである。グラブに当たっていないのでエラーにはならないが、うまくさばいていればダブルプレーのチャンスはあった。高津監督もこの場面を記憶しており、「あった、あった。うまく処理していればというところだったね」と話し、育てながら使っていく極意を話してくれた。
「岡ちゃん(長岡のニックネーム)は打撃が持ち味だったので、開幕スタメンで起用したわけだし、ある程度守備には目をつぶって使い続けようと思ってました。たしかに最初はポロポロ球をこぼしたり、大きなエラーもありました。でも、これだけは言えます。シーズンを通して確実に守備力は上達しました。試合前のシートノックを見ていてもそうだし、フィールディング、スローイングも安定してきました。なぜ、これだけ上手くなったかというと、試合に出続けたことがいちばんの要因かな」
このほかでも、レギュラーシーズン優勝を決めた一打を放った丸山和郁も、自信をつけてプレーしていることがうかがえるなど、監督の育成への思いは形となって表れている。
日本シリーズに敗れ、またイチからのスタートとなるヤクルト。来季は、どんな若手がチャンスをつかむだろうか。