ドラフト会議当日ーー巨人の1位指名は…

ーーテレビの中でドラフト会議が始まった。井元はどこか冷めた気持ちで画面を見つめていた。

『第1回選択希望選手、南海、清原和博ーー』 

　冒頭から清原の名前が呼ばれた。4球団が立て続けにPL学園の4番バッターを1位指名した。まだ高校生のスラッガーが世の中の視線を独占していた。

　そして8番目、巨人の1位指名が読み上げられる瞬間がきた。 『読売ーー』 

　一拍の間に緊張感があった。

『桑田真澄』

　その瞬間、井元は息を飲んだ。そのまま画面の前から動けなくなった。

　視線の先に王貞治がいた。多くの期待を背負って前年に巨人軍の監督となったが、2年続けて優勝を逃していた球界の英雄は眉間に皺を寄せて宙を睨んでいた。王の周りに様々なものが渦巻いていることをその表情が物語っていた。

　井元はその年の春先、例年のようにプロ野球キャンプの視察に赴いた。その際に王と言葉を交わした。記者時代から顔見知りの間柄だった。

「王くん、清原と桑田、どっちが欲しいの？」

　井元が何気ない調子で話しかけると王は言った。

「二人とも欲しいですねえ。ぜひ、うちに欲しいです」

　それを聞いて井元は声をあげた。とても笑い返す気にはなれなかった。

「そんなことは無理だよ。そんな......」

　井元はある意味で、誰よりも清原と桑田の力を知っていた。それゆえ、一つの球団が同時に二人を手に入れることは不可能だということがよく分かっていた。もし、そんなこと を望む球団があれば、ルールを逸脱する何かに手を染めなければならないような気がした。 

　ジャイアンツが桑田を1位指名したのを目の当たりにして、井元はそのときのやり取りを思い出していた。そして、大学進学を表明していた桑田をよりによって巨人軍が指名したことでどんな波紋が広がるのかを思い描いた。

　言わんこっちゃない。

　校長の顔や清原の両親の顔が浮かんだ。玄関のチャイムが鳴ったのはそのときだった。

　こんな時間に誰だろう......。

　＜後編につづく＞

#2に続く

「ぼく…密約なんてしてません」PL学園・桑田真澄がドラフト当日に明かした巨人への思い「清原よりもぼくを選んでくれた。嬉しいんです」

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