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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「清原さん、ひとつ言っておきますよ」PL学園・伝説のスカウトが清原和博の両親に伝えた忠告「あっと驚かされるのがドラフトなんです」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/20 11:01
1985年11月20日のドラフト会議で明暗が分かれたPL学園の桑田真澄（左）と清原和博
井元は怒りを堪えてこう言った。
「そうですか、分かりました。いいですよ。それであんたたち、できるの?」
これまで井元は野球部の入口と出口を一手に管理してきた。中学生の有望な選手たちがPL学園野球部に入ってくるのは、たとえメンバーになれなくても、卒業後は有名大学や社会人チームに進めるという実績があるからだった。信頼とブランドを築き上げてきたのは、井元の人脈の広さと太さに他ならなかった。そういう自負があった。
「この件については学校側が責任を持って指導しますので」
校長は得意げな顔だった。井元は内心で吐き捨てた。
この素人どもが......。
井元が清原の両親に告げた一言
教団側はKKと外部との接触を断ち切ろうとしているようだった。だがプロの世界はそんなに甘いものではない。教団の中だけで生きてきた人間が太刀打ちできる世界ではないことを井元は知っていた。だから、去り際に清原の両親に向かってこう言った。
「清原さん、一つ言っておきますよ。私、スポーツ新聞の記者をしていたことがあります。 ドラフト会議は第1回から取材しているんです。蓋を開けてみると、あっと驚かされるのがドラフトなんです」
井元はとりわけ清原家の様子が気になっていた。ドラフトが近づくにつれ、もうすでに巨人への入団が決まったかのような雰囲気があった。そこに危ういものを感じていた。
これまでも、とんでもないことを起こしてきたのが巨人
井元が取材してきた中で印象深いのは1968年の第4回ドラフト会議だった。その年、巨人は大学球界のスター田淵幸一を狙っていた。田淵を逃した場合は明治大学のエース星野仙一を指名する方針であり、そのことは星野にも伝えていた。
果たして当日、田淵の交渉権は阪神タイガースが獲得した。それを受けて周囲は、巨人が星野の獲得に向かうと思った。星野も自分が憧れの球団に指名されると心を躍らせたが、その彼の目の前で巨人は高校生のピッチャーを1位で指名した。井元は口約束を反故にされた星野の、そのときの表情が忘れられなかった。
その他にも、ドラフト当日に悲嘆に暮れた選手を幾人も見てきた。その中心にいたのはいつもジャイアンツだった。だから井元は忠告せずにはいられなかった。
「これまでのドラフトでも、とんでもないことを起こしてきたのが巨人という球団です。覚えておいてください」
清原の両親も他の人間たちも一様にきょとんとしていた。井元はそんな一同の顔を見渡すと静かに部屋を後にしたのだった。
