「いや、先生はマスコミにもおられたし、スカウトにもメディアにも顔が広い。そういうこともあるので......。清原と桑田以外の生徒の進路については引き続きお願いしたいと思っています」

　井元は腹に込み上げてくるものを感じた。御木徳近が逝去してから学園内部にパワーバランスの変化が生じているのは明らかだった。もし自分の親代わりである二代教祖が生きていれば、こんなことにはならなかったはずだった。

「球界の寝業師」がKKに接近

　PL学園はいまや高校球界の頂点に立った。その立役者となったKKコンビは日本全国で知らぬ者のいない存在だった。下手なプロ野球選手よりもよほど顔と名前を知られている。その二人を巡って、球界はもちろん学園内でも人間の蠢きがあるのだ。

1985年夏の甲子園優勝後、三国対抗でベンチに並んで座るPL学園の桑田（左）と清原　©︎Katsuro Okazawa/AFLO

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　少し前から、早稲田大学を出てプリンスホテルに進んだという人物が野球部に関わってきていた。その人物は卒業生の進路の世話をしながら、桑田に囁いたのだという。

「おれを通して早稲田にいけば、学費は一切いらないから」

　井元はその人物を、西武ライオンズの管理部長である根本陸夫が送り込んだ“スカウト”だと見ていた。「球界の寝業師」として知られる根本が密かにKKに接近していたのだ。 

　井元は桑田に相談された。

「先生、あの人に学費はいらないと言われたんですが、それはつまり早稲田を出たらプリンスホテルに入って、西武（ライオンズ）にいかなきゃいけないってことですよね？」

　そのとき井元はあらためて大人の心を見透かす桑田の眼に驚かされた。

KKを取り巻くいくつもの思惑

　球界の盟主である巨人の動きも激しかった。関西地区担当のスカウトである伊藤菊雄は自分の息子を33期生としてPLに入学させたのだ。伊藤はプロのスカウトでありながら、野球部の父兄としてKKに接触できることになった。

　それらはしかし氷山の一角であり、水面下ではさらにいくつもの思惑が絡んでいた。17、8歳の高校生を取り巻く環境としては異常であった。

　それなのに、自分を外すというのか……。

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